2015/02/15 Sun 04:16

★ インディゴ・ナイトJ



※ 予定外
※ 違う違うよ〜違うんだよ〜

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シスター・イラハ age21
本名:Terumi(照美)
移民孤児。聖コルムバ女学院卒。1967年8月19日夜9時頃、強風を心配して礼拝堂の雨戸を閉めに行き、そのまま行方不明に。現在も捜索中。

「貴女の記録です。何故…何故こんなことに?」
「……」
「身を隠さねばならない事情でもあるのですか」
「…ええ。私、戻ったら殺されますわ」
イラハは真っ直ぐ、きっぱりと言った。
「誰にですか」
「悪魔にです」
「………」
「ご用件は。私に対してなにをしたいわけでも無いでしょう」
イラハの記録には苗字が無かった。移民孤児にはよくあることだ。
気まぐれに富裕層が孤児を拾うが、そうでもなければ孤児に苗字は与えられない。
「私もこちらのウルビダも、貴女と同じ移民孤児です」
「そのようですね」
「私たちの、同じ身の上の仲間が行方知れずなのです。もう3日経ちました」
「………」
「シスター・サクルに会わせて下さい。行方不明になったのは、彼女が会いたがっていた人物なのです」
「フースケですね」
「えっ、ご存知で…」
イラハは目下に広げられたファイルを軽蔑を含んだ視線で睨んだ。ヒロトがどうしてこの記録を持ち出したのか最初からわかっていたかもしれない。
「フースケはたまに、犬と共に礼拝に」
「あ、そういえば…」
「病棟の医師がありがたがって話を聞こうと引き留めるので、あまり足繁くというわけではありませんでしたが」
イラハの声はどことなく気だるく、こうして話すのも気が進まないようである。
イラハが何も言わなければ身を隠す理由を無視しても所在を明かすという脅し。ヒロトだってしたくはなかった。
しかし背に腹は変えられない。
「洗礼を受けたのもここだと聞いています。どうか、何でもいい。心当たりはありませんか」
「さぁ…私には何とも…」
「どんなにささいな事でもかまいません。関係ないと思わずに、どんな事でも話して下さい」
この局面でウルビダは冷静さを保つのが難しくなっていた。
今は10人を殺した殺人犯よりも消えた友人を見つけたい。
2つは繋がっているのかもしれないが、それは考えたくもない可能性だ。
「…2日前にフースケの犬が来ました。司祭様と話していたようですが、フースケを探しに来たのでしょう」
(ハルヤ…来てたのか)
「犬は何と?司祭様から聞いていませんか」
「いいえ。何も。私は何も知らないので」
イラハは力になれることはないと早口に言い切り、開かれたままのファイルとヒロトを交互に見ると、有無を言わせぬようにお引き取りをと場を去った。
ウルビダは深く息をつき、ヒロトもファイルをしまいながら、下品なやり方をしたと自己嫌悪する。

「刑事さん」
「あっ、シスター。留守かと思いました」
「いいえ。イラハが教えて下さったのですけど、もうお帰りでしたか」
車に乗り込む寸前で、サクルが古扉から駆けてきた。
イラハに対し脅迫まがいのやり方で情報を引き出そうとしたのが余計申し訳なく思える。焦っていたとはいえ非道であったと反省する。
「天使の事ですね」
「ええ。何でも結構です。何か知りませんか」
「渡してくださいましたか」
「あ…アレ…
アレ、すみません。その…」
悠長に話がそれたと思ったのかウルビダは車の向こうから苛立ったように近付いて来た。
「なくしてしまって…
確かに家に着く前にはポケットに入っていたのですけど」
「そうですか…なら」
「風介に関するお話が無いなら急ぐのでこれで」
「私もお連れ願えませんか。邪魔にはならないと約束いたします」

サクルを妙な人物に思う。

最初に会った時は従順な修道女に見えた。しかしその日のうちに神の教えにのみ征服された盲目な思想は持たない、少々いたずらな少女の印象も得た。
悪魔を恐れぬと聞いたが、ただ勇敢だったり無謀だったりするわけでは無いようで、人並みに悪魔を警戒しているようにも見える。祓魔の経験についても話を濁されている。
悪魔への造詣が深いというよりも生活のなかで気付いたことのように悪魔の事情を話し、忌むだけの存在とは思っていないように感じられる。

『悪魔ですの?』

何か勘違いをしている気がする。
ヒロトは何となく頭の片隅に、小さくジリジリと煙を上げる何かを感じた。
焦げのようなそれの正体は何か大変なものを見逃しているか思い違いか、気付いていて直視したくない何かか…とりあえずは焦りの種類である気がする。
そんな気はするが、どこで上がっている煙なのか正しくわからない…
(なんだろう…)
「お待たせいたしました」
ケープを着込んだサクルは扉の前でイラハにあのお辞儀をする。
イラハも同じように礼を返し、2人は微笑みあう。
サクルが車に乗り込む間イラハは険しい表情で門の向こうを見据えていた。

何か隠している。

修道女たちは何を知っているのだろう。


「修道院から出ることはこわくありませんか」
ぼこぼこした森の道を抜けると、ウルビダが問うた。
後部座席のサクルは何かを探しているように外に向けた目を忙しくしていたが、ウルビダの問い掛けにハッと姿勢を正す。
「こわく…?」
「森から出れば守護が無いのでしょう。悪魔に狙われて、こわくはありませんか」
「…あ…いえ…はい…ええ…」
サクルはウルビダの言った言葉の意味をとらえかねているようだった。
何か考えているのか返事が無いので、ウルビダも黙る。
「お二人はご夫婦ですか」
そこで急に問いが返された。
「え?ええ…まあ…」
「ではヒロトさんの守護は奥様でいらしたのですね…」
「………」
「………」
ヒロトは横目にウルビダと視線を合わせたが、向こうも意味がわからないという表情を浮かべ怪訝そうにしている。
しかしお互いに発見したことがあった。
「ヒロト…」
「…おれもそう思う」
きっと“発見”は同じ事だ。ウルビダは後部座席を軽く振り返る。
「シスター、貴女は我々の友人に似ている」
きょととしている若い修道女は、確かにどことなく消えた友と似ているのだ。



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