2015/01/04 Sun 11:53

★ インディゴ・ナイトI



※ ようやく方向定まった感(一人言)
※ ファンタジーっつうかSFっぽくなってきた気がする

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もう3日も耳鳴りと頭痛に苦しんでいる。
風介が行方不明になってからの3日でもある。
血眼になってパートナーを探す犬も、3日戻らない。
同一犯によると思われる連続殺人の被害者は10人にのぼり、殺人課は蜂の巣をつついたように忙しなくやかましい。

ヒロトはデスクでぐったり項垂れていた。

同僚が淹れてくれた紅茶は一口も飲まないうちにすっかり冷めている。
『寝ないで』
どうしてあんな強烈な眠気が襲ったのだろう。
副作用のある薬を服用しているわけでもないし、何度あの日のことを思い返しても睡眠薬の類が口に入る可能性も無い。
ともあれヒロトがわずかに微睡んだ間に風介は忽然と消えた。
帰宅してから風介と会話したことも夢の中の出来事だったような、はっきりとしない記憶だ。
「しっかりしろよ」
「……うん」
「出るぞ。やはり“頭脳”の失踪ともなれば機密になるのだな」
「機密?!だって、」
周囲に人も居なかったが声が予想より大きくなってウルビダに軽く睨まれる。
手から車の鍵をもぎ取られ、ハイヒールの妻に着いていく。
ハルヤに申し訳がない。
今このウルビダの行方が知れなくなったなら、ヒロトもどれだけ取り乱すだろう。犬のように鼻は利かないが地を這うように探すだろう。
「早く見付けてやらないと…」
「………」
「ハルヤと会えればいいんだけどな。何処に居るやら」
「うん…」
「落ち込んで何か意味があるのか?自分を哀れんでる場合じゃないしお前を慰めてやる暇もない。メソメソするな」
そういうウルビダも3日前隠れて泣いていた。
もしさらわれたのなら無事にすまないかもしれない。
子供がさらわれたとか女性が拉致されたとか、そんなことが起こると即座に最悪を考えるのに、身内がその目に遭うと全く冷静になれなかった。
「シスターは本当に風介を天使と呼んだんだな」
「うん」
「羽を折りたがっているヤツが野放しになっている」
「やっぱり関係があるのかな」
「考えたく無いけどな」
ヒロトよりずっと理性的なウルビダだが、運転は荒かった。

公開されていないが、国家によって“高次元能力者”として登録されている人物が居る。現在8人。
風介はその1人だが、機密情報なので本人の意思による開示が許されているのはやむを得ない場合を除いてたった1人。ウルビダが知らなかったので、秘密の保持者はハルヤだろう。
国家保有の【能力】は、“頭脳”の他に“力”と“美”“技”がある。
頭脳登録者は技(解剖の技術とサイ能力による)と同時登録される事が多く、風介もその1人。一方伴侶のハルヤは力に登録されている。
ついさっきウルビダから聞かされた。

頭脳の失踪は国にとって損害以外の何でも無いが、大抵の場合軍の暗躍部(非公開で、呼名も無いチーム)が行方を追う他は大々的な捜索はされない。
万一害ある過激思想を持ってのことであったり、そういった組織に与していたりすれば、投降しても抹殺されるためだ。
誘拐犯が名乗りをあげ、金でも要求しない限り、おおっぴらに探せない。

ウルビダとヒロトは即座に暗躍部に志願した。
軍所属ではないが、マスター(高次元能力者の通称)は申請が通れば緊急時公の機関の垣根を越えた職務の着任と優先が許可されている。
今回風介捜索のため発足したチームに、これでマスターは3人。
ヒロトは“技”、ウルビダは“美”の登録者である。
「連続殺人犯の仕業の可能性があるのに機密になるのは何故だろう…」
「その可能性を警察は指摘していないようだ」
「ああ…そう」
「無能呼ばわりにあんなに怯えてて、どうやって今まで成り立ってたんだか」
「ごもっとも」

陸軍基地に着くと暗躍部着任の証明書を提出する。日焼けした門兵が本部が設置された部屋に案内してくれたが、もぬけの殻であった。
風介は軍で可愛がられていて、チーム志願者はとても多かった。皆寝る間も惜しんで探しているし、許可されている定員の倍は動いてると、門兵が教えてくれた。
最後に未認可だがな、と笑って部屋を出ていく。
中央に置かれたテーブルには書き込みでぐちゃぐちゃの地図や、出入りが激しいのだろう。誰かに向けられた置き手紙や走り書きのメモなどが散乱している。
「………」
「ウルビダ、見て」
「なに」
「このメモ、ハルヤに向けたメッセージだね」
「…必ず見つけ出そう、お前はひとりじゃない…」
「おれ、軍に転職しようかな」
「ま、警察には無いものだな」
ハルヤに向けられているだろうメッセージは、黒板や地図の端、テーブルに直に書かれているものもある。
殺伐として世間の反応や体裁に恐々している警察とは明らかに違う、強い仲間意識が伺えた。
「軍なら希望は早く通るんじゃないか」
「でも戦うのはやだな」
「じゃあ無理だ」
卓上の資料を読みながらウルビダが小さく笑う。
風介が失踪してから初めて見せた笑顔である。
「誰かを痛い目に遭わせるのは気が引ける」
「そもそも愛国心が無いだろ」
「ああ、確かに」
「ん?これ…」
ウルビダがヒロトに差し出して見せたのは風介のスケッチブックだった。
可愛らしい字と絵が並んでいるのだが、よく見ればお絵かきではない。謎の化学式や読めない言語で綴られたメモ、ページをめくれば骨や臓器の精巧なスケッチ、毒物の名前、死因、死者との対話記録…
「風介は犯人の見当がついてたのかな」
「わからない…そもそも拐われたのかもわからないし、犯人に狙われて逃げたというのも…言い切れない」
「でも何故だか無関係に思えないよ。思い込むのは危険だけど」
「ああ」
「修道院に行こう。シスターに天使の事を聞いてみなきゃ」
2人は黒板に目立つよう、天使を取り戻そう、と大きく書いて、風介のスケッチブックを抱え部屋を出た。

今日はハロウィーン・イブ。
1週間前には楽しそうにカボチャのランタンを作っていた風介が、自分の意思で姿を消すとは、到底思えなかった。




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