2014/12/31 Wed 04:08 ★ インディゴ・ナイトH ![]() ※ ちょっと宗教観強い人にはアウトかもしれない ※ 影響力も見てる人も居ないだろうけど一応鍵かけました ※ ここを見ているパスがわかった人マジゴイス ----------- 「答えにくいかもしれませんが」 「はい」 「悪魔の容姿や特徴を教えてください」 「………」 森を出る前からシスターの手には首から下げられた十字架が握られていた。司祭と交わしていた今生の別れのような言葉を思いだし、胸が痛む。 「埠頭へ」 「埠頭?何か用事が?」 「運が良ければ会えます」 「………」 宗教学の授業で見た魔王の絵が頭をよぎった。 黒々とした肉体。厳めしい面構えの上で角がまがまがしく湾曲し、尖った爪が非力な人間の体をを貫いている。 (運が良ければ…それって運良いのかな…) シスターは出来るだけ悪魔のことを口にしたくないのだろうが、情報を得なくては。 「…私は悪魔にとってどういう存在だと思われますか」 「…好きだと思います」 「えっ」 意外どころではない返答に車の運転を誤る寸でであった。状況にそぐわない可愛らしい言葉を、どうとらえたらいいものか… 「悪魔は頭脳の優れた者、正直な者、誠実な者などを特に好みます」 「へえ…逆なのかと思っていましたが」 「試す事と挑む事を楽しむようなので」 (案外悪魔の話題を忌避しないのだな) 「誠実であったり純粋であったり、親切な気持ちを持つ者の精神を試し、落胆させる。そうすると人は己に価値がないと思い込み、自棄になって狂行に及ぶ事がある」 「ああ…悪魔に唆されて、なんて言いますしね」 シスターは窓の外をずっと見ている。気になるものでもあるのかと思ったが、単に久しぶりに見た森の外の景色が懐かしいのかもしれない。 「下品で知性がないという通説は、悪魔の声に耳を貸さないように諭す方便です」 「はぁ…」 「彼らはいくらでも上品に振る舞えるし、親切であったり邪心の無い者も居ます」 「それは…驚きです。信じがたい話ですね」 驚いたのは知らなかった悪魔の性質にのみではなく、シスターが語る“悪魔”が常に複数、または多勢であることである。 「頭の良い人間、多くの知識を持つ人間は悪魔にとって最も素敵な存在です」 「しかし賢者ほど悪魔に耳を貸さないのでは?」 「………」 「シスター?」 「…悪魔は…」 坂の先に埠頭が見えてきた。 なんとなく霧が出てきそうな空気に、嫌な気持ちになる。 「謙虚さや誠実さや、親切である事を、心掛け、誇りに思う者が悪魔の戯れに挫けやすいのです」 「はい…」 同じ内容を繰り返されたように思えたが、違和感があった。 (心掛ける…?) 「子供が親切であったり優しさを意識している場合、そうしなければならないと感じているとか教えられたとか、好きな友達や家族、親に褒められたいとか、そういう理由が多い」 「……」 「しかし大人になると何かしらきっかけがあったり、自己を嫌悪するような過去があり、変わろうと思ってそう心掛ける事があります」 「ありますね。多くの人がより善人になりたいと願うものでしょうし…」 工場が並ぶ通りを抜けて、埠頭に着く。木箱やロープが乱雑に積まれた倉庫の壁近くに駐車したが、シスターは降車する気配がない。 「…悪魔はそこを刺すのです。暴かれたくはない事、辛い目に遭った過去、どうしようもなかった過ちさえ、許されないのだと揺するのです」 「…むごいですね」 「悪魔は悪人に興味がありません。全く性質の違う生き物です」 「はぁ…」 「悪魔は同族を罰する事も裏切る事も無い。良くも悪くも…」 「………」 3年前の事件が思い出された。 良くも悪くも悪魔は同族を裏切らない。では悪魔に操られて人間を殺したという彼は一体どういう存在になるだろう。 「…悪魔は人を操りますか」 「いいえ」 「では、人に行動を強制できたり、脅して従わせるような事は?」 「………」 「あるのですか」 無言は肯定に思えた。 しかしシスターは首を振る。 「これは…許されない言葉です」 「何ですって?」 「さまざまな“教え”が、それぞれの神を真実だと敬い、讃えている」 「ええ、はい」 「しかし隠している」 何を、と訊く前にサクルは車を出ていく。追ってヒロトもドアを開いたが、海からの風の冷たさに頬の皮膚がピリピリ傷んで目を細めた。 「言えない事もたくさんあります。でも刑事さん、貴方には守護がある」 「守護?シスター、波音がうるさくてよく… 車へ。話は中で」 「天使に会わせて下さい。ここには悪魔はもう居ません」 シスターを森から連れ出してしまえば何が起こるかわからないと覚悟していた。 最後のもみを過ぎた時、血に飢えた化け物が襲いかかってくるかもしれないとさえ… 「おかえりヒロト」 「風介、大丈夫?」 「うん…2人は仕事に戻ってもらった」 部屋に帰ると暖炉の前のカウチに埋まるように風介が寝ていた。 顔が隠れるくらい大きな枕と、やり過ぎなくらい掛けられた布団。 鮮やかなキルトの隣で不自然なくらい白い顔。 「眠りなよ。顔色最悪だよ」 「うん…」 サクルを修道院におくるとイラハともう一人若い修道女が駆け付けて来てケガは無いかと詰め寄った。 サクルの検査を終えると今度はヒロト。 埠頭から街に戻り、最初の被害者が見つかった現場横を通りながら森へ帰った。ほとんど車から降りなかったし、当然ケガも無い。なのにひどく疲れている。 風介のために作られたらしい鍋のスープを温めて飲むと、どっと眠気が押し寄せる。 「私に預かりものがあるんじゃない?」 「…え…」 「誰からかな」 「…すごい。そんなのも、わかるの…」 コートのポケットにはシスターから風介にと頼まれたブレスレットが入っている。しかし眠くて椅子から立ち上がれない。 「明日…あとで…」 「だめ。今ちょうだい。寝ないでヒロト」 「眠くて…」 「ヒロト、今必要。ちょうだい。寝ないで」 「………」 「ヒロト、頑張って」 「眠いんだ…少し…」 「ヒロト」 やめてくれ。こんなに眠い…眠いのに… 「ヒロト!」 「眠い…」 「起きろ!風介は何処だ」 「えっ?」 ほんの2、3分うとうとしただけのつもりが、日は沈み部屋は真っ暗に。暖炉では燃えカスになった薪が煙さえも上げていない。 「…自分の部屋に…」 頭がくらくらする。 「居なかったから訊いてる。 風介は」 「………」 「ヒロト!」 ← top → |