2014/12/26 Fri 19:59

★ インディゴ・ナイトG



※ 職の位置もファンタジー仕様
※ どこに着地するのか最早わからないけどそんなの書き始める前からだった


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8人目の被害者が見つかった日に、9人目も見つかる。
「どうですか」
「だめだ、ハルヤを呼ぼう」
「でも今日は演習で」
「電報を出そう。上官を通せば話が早い」
「あ、はい、そうですね。すぐに」
風介の助手を務めるスタッフは大きく頷き慌ただしく部屋を出ていった。

連日の激務に風介がまいってしまった。

監察医は特殊な職で、行政の直下にありながら組織は無く所属は軍である。
しかし解剖を依頼する場合監察医に直接交渉し、国に申請する必要は無い。監察医は解剖の報告を国にする義務があるが、それは半年に一度まとめて行い、行政に是非を問うことも無い。
また、監察医とは呼ばれるが正式には軍医であり、風介は部隊には専従しない医療部署に在籍している。

「すぐにハルヤを呼ぶからね」
「………」
「ウルビダももうすぐ来る。2人と一度、家に帰ろう」
「………」
風介が小さく頷いたのを確認すると、ヒロトは立ち上がる。
するとコートの裾が引っ張られたので仕方なくまた隣にしゃがみこむが、シスターとの待ち合わせの時間が迫り気持ちが焦っている。
「すぐ2人が来るから」
「………」
「え?なに?」
「………」
イヤ、ダメ、ここにいて。
聞き取れないくらい小さな声だった。

風介が珍重され、注目を集めるのには解剖の腕や奇怪な発言だけではない。
一部の人間しか知らないが、サイ能力がある。
ヒロトも数日前に知った。
『でも本人の意志で自由に使えるわけではないようだ』
『え、…困るね?』
『滅多に起きないが起こってしまった時は激しく消耗する』
『噂には聞いたけど本当だったんだ』
『噂がただの噂じゃないと広まるのは避けたい。もし現場に遭ったらさりげなくフォローしてあげて欲しい』
数日前、言うのを忘れてたとウルビダから聞いた。
たぶん隠していたわけではなく、本当に忘れていたか、風介から明かす許可をもらったか…
(前者だろうが…)
見分け方も聞けば良かった。
今目前でうずくまる風介は疲労で立てないのか同調を起こしたのかヒロトには判別できなかった。ただ心身が弱っている時に起きやすいと聞いたから、たぶんそうだ。
「触って平気?」
「…なでて」
「あ、うん」
ふわふわとした髪をなでる。
「おなか」
「あ、そっち?」
「痛いよ」
「え」
畳まれた足と腹の隙間に指が触れた時、全身に強力な電流が走ったような痛みに襲われる。
呼吸が出来ず、視界がチラチラと白む。
痛みが止むと息が弾んだ。
「な、」
「これが毒……」
「え?」
「なんてつらい……」
「毒…?毒って…?」
それきり風介は黙ってしまった。


「毒が悪魔の証ですか」
「監察医がそう言ったとか」
「毒が…」
シスター・サクルは首をかしげる。
その仕草を見ていて、どうあっても悪魔を退ける力を持つようには見えないと思う。体は細く、表情もあどけない。
移民か難民か、もしかしたらヒロトやウルビダと似た生い立ちを持つかもしれない。
白い髪と橙の瞳は、この国を成り立たせた民の純然たる血を持つとは思えない。
「シスター、失礼ですけど出身はどちらですか」
「………」
「もしかしてお答え出来ない?」
「ええ、申し訳ありません…」
「いいえ。無礼をしましたね」
ヒロトとウルビダは移民孤児だ。
詳しくは知らないがおそらく風介もそうだろう。
この国に移り住んだ外国人が生んで捨てた。国の人身教育プログラムに謙譲すればいくらか貰えるらしいが、法学と社会科に興味の薄かったヒロトはぼんやりとした知識しか無い。
「さて…先日悪魔の話を聞きましたが」
「はい」
「やはりご協力願えませんか」
「……」
「出来うる限りお守りします。必ずとは言い切れないですが」
「私が決められる事では…」
シスター・サクルは困ったように微笑む。
「正直ですね、刑事さん」
「え」
「必ず守る、よりも、かえって安心しますけれど」
「ああ、まぁ…絶対とは言えませんよ。危険は危険です」

『悪魔たちは、どうやら私を殺したくて仕方がないようです』

シスター・サクルは以前、毎日悪魔に付け狙われ、逃げ隠れしてなんとか過ごしていたという。
しかし業を煮やした悪魔が人質を取った事があり、他人を巻き込むことをおそれたサクルは修道院に保護されるまで悪魔の力を増長させる餌になっていたという。
その方法までは聞かなかったが非道の気配しかしない。
教会の庇護が無い森の外には一歩でも出られないというサクルが哀れだった。
「私一人が危険ならかまいません。でもそうではない」
「また人質をとられると?」
「そうなれば何も出来ないでしょう」
「それは我々に任せていただけませんか。悪魔から身を守るのは簡単じゃなくても、人質を奪い返すくらいの意気地はありますよ」
「………」
一応捜査班に悪魔の可能性を報告はしたが、叱られて終わりであった。
警察は捜査線上に“悪魔”の言葉が出るだけでかんしゃくを起こしそうな程に過敏である。
だから我々が守ると言うのはハッタリに過ぎない。守備に出せる人員など確保出来ないのだ。
今、シスターを森の外に出せば悪魔が現れるだろうから協力してほしいと説得している。無謀だし無情だ。
かなりの無茶を頼んでいることは承知しているが…
「私を探しているのでしょうか…」
「えっ?」
「私を誘き寄せるために、人を殺めている…」
「…悪魔がですか」
「…いえ、違いますね…なんだか…そうじゃない」
サクルは何か考え込むようにして黙ってしまう。
伏せた目蓋に生え並ぶまつげの色が風介を思い出させた。
(かなり弱っていた。大丈夫だろうか…)
「…誰かを案じてらっしゃるのですね」
「!」
「お友達…?何か、大きな…強い衝撃を受けて…動けないのですね…」
「わかるのですか」
「私にも時に刑事さんのご友人と似た事が起こるのです」
サクルはまた困ったように微笑む。
「出掛けましょう。日暮れまでに必ず私を森に帰してくださるのなら、司祭様を説得します」




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