2014/12/19 Fri 19:55

★ インディゴ・ナイトD



※ グロく…はないはず
※ 勿論だけどフィクションだお
※ フィクションだお!


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教会は罪を匿うだろうか。

ヒロトが2日をかけて街中の教会に聞き込みをしたが、残念ながら電話の主を探し当てるどころか疑わしい人物さえ居ないという。
「罪人が心底悔いていたら、教会は司法に訴えると言い切れるか?」
ウルビダは近場にあったステンレスのワゴンに寄りかかって腕を組んだ。
遺体を少しも痛めないように、ここはいつも少し寒い。
「………」
「…すまない。邪魔したな」
風介は5人目の被害者の手を観察しては、手に持つスケッチブックに何かを書き込む。
事件の発覚から10日経っても何の手掛かりも見つけられていない警察にとって、今は監察医の意見は何よりもありがたい。
「……人による」
「え?」
「罪を庇うは人による」
「人による…」
風介はスケッチを続けながら一人言のような返事をする。
「罪人の人柄ということか?」
「…聖職者は神ではないから…」
「すると告白を受けた側…聖職者の人柄によると?」
「人柄ではなくて」
風介はお手製のキャスター付きの椅子に腰かけたまま、軽快に移動する。座ると風介の座高で、ちょうど遺体が横たわる位置が目の高さになる。
「わかりやすく言ってくれないか。私は教会に縁が無い」
「ウルビダ、ばか」
「ばかか。最もだ。でも救いなんか求める気がないからな」
「ばか、と言われて怒らない。許す」
「は?」
風介はいつも声の調子が変わらないため、感情どころか冗談か本気かもよくわからない時がある。
「でもばかと言われて怒る人も居るでしょ」
「ああ、まあ、居るだろうな」
「人を殺してしまいました。でもその意志も恨みも無く、不注意でした。私はその不注意を深く悔いています」
「……?」
タイルや金属ばかりの部屋では淡々とした声は余計に素っ気ない。
「今の告白を受けて、殺人だ、と思う人と、事故か、と思う人と、どっちが多いと思う…」
「どっちが…多い?」
多い……
淡々、の後に投げられた質問は、ウルビダを戸惑わせた。一瞬で今まで出会った人たちの顔が頭の中に閃いては消える。
あの人ならどう思う。あの人なら。あの人なら…
「…わからない」
「正解」
「正解があるの?」
「どっちの人も居るってことがわかってるから傾かないんだよウルビダは」
「………」
「でも自分の考え方が正しいと感じる人は、どちらかだと答えるんだ」
「ああ…そうかもね」
話はわかるが、何を言いたいのか。すでに尋ねた事柄からそれている気もする。
「聖職者という職業にくくられたとしても、すべて同じ考え方や感じ方はしないでしょ」
(そういうことか)
風介にしては回りくどい。例えや比喩を使う話し方は珍しかった。
「なるほどね…」
「神の子でなく神ならばいつも答えはおなじだろうね。でも残念ながら小さな子供を死なせたと聞いて激怒する人も、残忍な盗人を殺したと聞いて褒める場合がある」
「第三者に他人の判断などわかりえないということだな」
「ところがこの残忍な盗人は実は冤罪で、小さな子供は常日頃から小動物を殺して喜ぶ邪悪な子供だった」
「………」
「教会は告白の言葉を真実と受けとる。それが大前提だし、神の御前でそんな大それた嘘を吐く者は普通居ないと考えがちだ」
「…つまり?」
「電話は教会からじゃないかもね…」
「!」
その可能性はヒロトも指摘した。
しかし一蹴されたのだ。
捜査班は教会が犯人をかくまっているという仮説に躍起になっている。

3年前に3人を殺害した青年が無罪になった事件があった。

犯人は自分が殺害した被害者の血を浴びたような姿で西区にある教会に駆け込み、礼拝堂の入り口で気絶した。
彼は高校生の頃に自分をいじめのターゲットにしていた同級生の、両親とまだ12歳だった弟をそれぞれ80箇所以上刺して殺害。絶命した後の傷の方が多く、壁に投げつけられた誕生日を祝うケーキと木っ端微塵にされたパーティーの飾り付けが、現場をより凄惨なものにさせていた。
教会は犯人を匿い、事件は彼の意志ではなく悪魔が彼の自分の身体を乗っ取ってさせたことだと主張した。犯人の手には十字型の火傷があり、それは彼が悪魔と戦った証拠であるという。
傷を調べたところ鉄製の十字架を熱して本人がつけたものの可能性が高いとわかり、検察は“悪魔憑きの演技”を根拠をいくつも提出したが、
犯人はイコンや十字架、マリア像などを恐れ、避ける、時々普段とはかけ離れた激しい表情を構え、口汚く卑猥で無礼、罰当たりな言葉を叫ぶなど、裁判の間でさえそういった様子を見せた。
陪審員どころか傍聴した者までもが悪魔の存在を信じきった裁判の判決は、無罪。
犯人は教会が引き取り、悪魔払いを続けるということになった…

「雪辱を果たしたいわけだがな…」
「そうだろうけど、在り方を見失ってるね」
「その通りだ」
「ところで悪魔を信じてる?」
風介はようやく椅子から立ち上がった。
「………」
「見たら信じる?」
「何が言いたい」
何かを熱心に書き込んでいたスケッチブックをめくりながら隣に来ると、同じようにワゴンに寄りかかる。そしてあるページを見せた。
「死因かもって言ってた毒だけどね」
「ああ、うん」
「これなんだけど、わかる?」
子供のお絵かきのように可愛らしい筆跡だが、描かれているのは構造式である。
「グルコース、ヘモグロビン?これは?」
「尿素」
「…わからない。化学はあまり知らないんだ」
「実は血なんだけど」
「被害者の?血から毒物を検出したということだろ?」
「毒は血かも」
「………」
どう考えたらいいのかわからずに黙っていると、最も小さな構造で世界を見分する術を知る風介は心もとない様子で呟いた。

悪魔は居る、と。



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