2014/12/18 Thu 22:14

★ インディゴ・ナイトC



※ わんわんお!(^ω^)
※ わんわんお!
※ わんわんお!


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本当は広い土地で、何もなくていいから、土を耕すような暮らしがしたい。
ある朝ウルビダにそう言うと、靴下をはくのを途中で止めてゆっくり隣に腰かけた。
それから心底の願いであるとわかる、切実な声で静かに呟く。
そこで子供を生んで育てたい。

ウルビダは家具は気に入ったものを買い揃えたいと言っていたが、結局このアパルトマンに入居した理由が暖炉であった。
先週隣室に越してきた風介とハルヤは、自室よりもこちらの部屋に居る時間が長いような気がする。
2人も暖炉を気に入ったのか部屋に居る間は暖炉前のラグで寝転がっていることが多い。

風介とハルヤは旅行に出かける程度の小さな荷物を持ってやって来た。
揃いの食器を一式と、何冊かの本、何着かの着替えと寝間着、そんなものを備え付けの棚やクロゼットにしまってしまうと、チェス版とみかんのジュース、1ダースのチーズとチョコレートを持って2人の部屋を訪ねて来た。
それからほとんど毎日来ている。
「シシー…痛かったろうな…」
ハルヤの胴に埋まるようにして寝そべっている風介は、例の事件の司法解剖に関する資料を眺めて難しく顔をしかめている。
「シシー…4人目の子だね」
「発見は4番目。でも殺されたのは3番目」
詳しく調べた結果、遺体の発見された順番と殺された順番はやはりちぐはぐだったことがわかった。
「シシーはハルヤの同僚の姪なんだよ」
「え、あ…そうなんだ。それは気の毒だったね…」
「………」
ハルヤは必要が無い限り、風介以外と話さない。
慣れればうるさいし饒舌だとウルビダは言うが、まだなれてくれては居ない…ということにしておいている。嫌われている可能性も高いが。
「シシーは腕を縛られたあとがあったし、吊るされた状態で羽を折られてる…」
(羽?そういえば前も言ってたな)
「…羽って何だ。肩甲骨か」
ハルヤが言う。
ハルヤは無愛想だし短気だが、どうやってこのわかりにくい風介を伴侶としたのか。それが不思議でならなかったヒロトは、この数日で随分その事に合点がいった。
「んー…」
「お前って人間には羽が見えるの」
「んん…たまに」
「へえー」
風介は不思議だ。
こう言っては何だが、あえて言えば、監察医なんて最高にグロテスクな職業だ。なのに彼からは血生臭さやおどろおどろしさは全く感じられない。
先日会ったシスターが礼拝堂で祈る姿と、風介が遺体にメスを入れる姿は同じくらい神聖な空気をまとっている。
(羽が見える…は、どういう意味だろう)
「オレは?」
「無いよ」
「人間だけか」
「そうじゃない」
「犬にもある?」
「…エリザベータにはあった」
ハルヤは風介の言うこと全てに疑問を持たないようだった。単に自分が知らないことを知っている、と感じているだけのように見える。
風介が言う生命の成り立ちは、それもひとつの真実で、実際に存在する世界であると信じているようだ。そしてハルヤはそれらを知れる事を、とても楽しんでいるようだった。
(だから好きなのかな…)
ヒロトにとってウルビダは大事な妻だが、風介とハルヤの関係とは違う。

超重量系の犬種は戸籍と人権がある。社会的には人とかわらないのだ。
平均寿命は犬の方が10年ほど長いが、生物として違うという最も大きな違いは不思議なほど人に受け入れられている。
5世紀ほど前には犬は犬の社会を作っていたが、歴史史上一度も大規模に人間と争ったことがない。社会性なら犬の方があるという研究者も居るし、実際犬は人間よりはるかに温厚である。犬同士で争うことも、差別の問題もほとんど無い。
意外なことにハルヤは敬虔なクリスチャンだし、短気とはいっても“犬にしては”だ。
細君を大事にして、一度決めたパートナーと一生つがう。
驚くべきは交配の機能だ。
人間と犬は子供を成せる。
ただし人間が犬に子供を生ませることは出来ないし、生まれる子供は犬か人間かどちらかである。
犬と人間の双子の場合、同時に生まれてしまうために人間の子供が育った例は聞かない。
そもそも犬と人間の夫婦(それ自体多くはない)は子供を持たない事が多い。
同性のつがいが7割を越えるというのもひとつの要因だが、身体の関係が無い場合が圧倒的に多いようだ。
ハルヤと風介は…どうだか知らない。

「ハルヤ」
「あ?」
(君たち性生活どうなってるの?と訊きたいがそれは飲み込んだ)
「もみ森の教会に行ったことある?」
「………」
「礼拝はいつもそこだよ。モートリアで拾った孤児はみんなあそこが引き取ってくれてるから」
「あ、そうなの?知らなかった」
「ハルヤ、ヒロトは良い夫だから大丈夫だよ」
(良い夫?)
風介とウルビダは幼馴染みだが、ほとんどきょうだいのような間柄である。
ハルヤがなついている(という表現は差別的だが)数少ない人間にウルビダが含まれるが、パートナーの姉の夫…という関係になるヒロトに厳しい目を向けていたようだ。
男尊女卑の色濃い社会で突出した才気のあったウルビダが、無能な男のやっかみに遭うのを幾度となく見てきたせいだろう。
「何度ヒロトの良いところを教えても納得しないんだ。すまないね」
「いや…うん…」
結婚して2年になるが、まだ認めてくれていなかったのか…
「ウルビダがヒロトを選んだのだから…」
よしよし、と頭を撫でてやる。ハルヤは眉を寄せたまま目を閉じ、ぶるると頭を振ると舌打ちして顎をラグの毛足に埋めた。
(犬って舌打ちできるんだ…)
意固地になっている様子のハルヤを、優しく撫でる風介。
この子たちにもきっと自分たちのように、叶い難い願いがあるのだろう。





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