2013/05/26 Sun 09:03

★ 蛾と蝶



※綱海と佐久間♀
※リハビリ用意味ナシ文


『私って蛾みたいじゃない?』

彼女が自分を何かに形容したのはそれ一度きりだった。

蛾ってなんだよ。じゃあオレ蛾が好きなのかよ。蛾と付き合ってんのかよ。ばかじゃねえの。あいつばかじゃねえの。
佐久間は美人だ。美人…美女…そうだな。美女のほうがしっくりくる。違いがよくわからないけど。
「自分の事蛾みたいって言う女どう思う」
「え、なにそれ。フツー言わないだろ」
「それが言うんだよ。言ったんだよオレのアレ」
「アレって。自慢の彼女でしょ」
「“私って、蛾みたいでしょ”」
「…ふうん…変わってるね」

佐久間が蛾をどう思っているのかよくわからないので、それが自賛なのか卑下なのかもよくわからない。
でもオレんとこのアパートの階段のとこで、照明にばたばた飛んでた蛾を見て
『オェきも』
って呟いてたのは憶えてる。
そしたらやっぱり佐久間はきもくてバサバサしてて粉っぽいあの虫くらい自分がきもいのかきらいなのか。
『じゃあオレは』
『んん?』
『お前が蛾ならオレは』
『んー……ちょうちょ』
『かわんねぇじゃん!』
『そんなことないよ。蝶はみんな好きだし、蛾は害虫だもん。毛虫だし』

なんでそんな事言ったんだ。

それから半年くらい経ってから、浜にうち上げられて死んでたイルカのニュースがテレビで流れた。その後なんだか気になって、イルカとかクジラとか海の哺乳類の事を調べてみた。
死んでたイルカは潮の関係で流されただか迷っただかそんなことが予想されてるらしい。調べていくうちにクジラの乱獲の写真を見た。もちろんかなり昔のだ。
白黒の写真ばかりの中で、カラーだけどなんとなく色合いの渋い古い写真で、真っ白の氷と雪の世界で身体に太い金属の杭が何本も刺さって死んでるクジラの写真があった。

それが佐久間に似ていた。

なにがと言われてもわからない。どこがと言われても。でも佐久間と似ていた。しなやかな皮膚に少し錆びていていかにも冷たそうな太い杭が、何本も…
コントラストの強い写真の中では血はオレンジ色に近かった。
だらだら流れて氷のすきまにたまっている。
(悲しいな)

「お前は蛾じゃいよ。もっときれいななにか」
「…そんな話おぼえてたんだ」
「蛾も種類によっては綺麗だと思うけど、お前は嫌いだろ。嫌いなものに似てるっていうからには、お前は自分が嫌いなのか」
「まあね」
「お前が蛾でもオレは好きだよ」
「そういうの物好きっていうんだよ」
「捕まえて剥製にして飾ってやるよ」

そういうところが似てるんだ。

きっと佐久間がクジラに見えたのは俺が佐久間をそう見てるからだ。捕まえてきれいに保存しておくより本当は捌いて食べたいと思っているかもしれない。
さすがにそれを言ったらオレを“綺麗”だからと蝶だと言った佐久間に悪い気がしたけれど物好きと言われて納得してしまうところもある。
「剥製かな。標本じゃない」
「あ、そうそう。標本標本。虫だもんな」
「それに使うのは虫ピンだよ。杭は使わない」




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