2012/02/24 Fri 06:05 ★ 単発連載《 箱 》I ※ リハビリ用 今回のことは複雑で、不動が庇った友人の罪はとある裁判官を刺した事だ。 裁判所から出てきたところを近付いて行って腹を刺した。初めから殺すつもりは無かったのだろう。傷は浅く、凶器も小さなナイフだった。 刺してやったが恐ろしくなってそこから近くの公園に隠れると不動に電話をかけてきた。その時相手の震えた声に、不動は情けないと思うよりも心の底から同情した。 これは二年前彼の恋人を刺した通り魔に下された罰があまりにも軽かったという事件から始まっている。無論彼が刺した裁判官が下した判決だった。 不動も傍聴席につき、その信じがたい判決を共に聞いた。 この二年足と言葉に後遺症が残った恋人を支えながら彼は川沿いの修理工場で働いていた。そこで職場で世話になっている先輩の妹が彼の恋人が刺された事件と酷似した被害に遭ったと聞いた。 通り魔は同じ男だった。執行猶予の間の事だ。 恩人の唯一の身内が刺され今も後遺症に苦しむ恋人を思えば“逆恨み”といえども耐える事は出来なかったのだろう。 駆けつけた不動は錯乱する彼から話を聞くと手から凶器のナイフを奪い、血のついた刃を剥き出しにして現場近くをうろついた。間もなく連行されたが刺された裁判官が不動を犯人では無いと証言したため不動には留置の措置がとられる。黙秘していたのは何故だ何故だと訊かれても、やっていないので答えようが無いというだけの事だった。 「あれほど訴えて、彼女の家族も必死だったのに」 「覆らなかったのか」 「刑事さんはああ言ったけど、どうせ大事にはならないだろうな。なんとなく、こういうもののひずみがわかったよ」 「裁判官と通り魔に関係が?」 「妻の兄の同僚だとよ」 「成程…」 「くそくらえだ」 「………」 不動は学校に復帰したが日々はかなりの多忙を極めた。 授業の他に補習と追試、警察にも通う羽目になったし、丸2ヶ月サボった体は部活に出れば終日使い物にならなかった。 「あ、そーいやさァ」 「ん」 「すげー今更だけどよ、例の失踪したサクマサン?てどうなったん?」 筋肉疲労でぱんぱんに腫れたふくらはぎを拳で叩きながら上半身をだらしなく預けた卓上から訊ねてくる。 「ああ…そうだ。見つかったといえば見つかったんだが……お前そういえば」 「んあ?」 「やっぱり知らなかったのか。お前事を複雑にする天才だな」 「なんだよ」 「例のお前の恋人だったんだよ。 失踪したサクマサン」 ← top → |