2012/02/23 Thu 06:03

★ 単発連載《 箱 》H



※ リハビリ用
※ 知識なし



『誰が保釈金を』
保釈と聞いて不動は唸るように言った。そんなはずは無い。他人の名誉と身体を傷付けた罰がたかが2ヶ月弱の留置で済む筈が無い。
鬼道だろう。
それしか思い付かなくて何か苦いものを噛んだような気分になる。最悪だ。放っといてくれ。
警察は変に慌ただしく、皆どこか緊張して見えた。感じの悪かった監守もなんだかよそよそしい気がして気持ちが悪い。ただ後々参考人として呼ばれるだろうとだけ説明された。あとは弁護士を通すと。
(弁護士だ?)
そんなもの雇ってない。金もない。やはり鬼道だ。
「どういうつもりだ」
「なんの事だ」
「うるせえな!答えろ!」
「保釈おめでとう」
思わず胸ぐらを掴むとにたりと笑ってポケットに両手をつっこんだ。なんだその余裕ですって態度。
「よかったじゃないか」
「よかねぇよ説明しろ。どうなったんだ。何がどうなったんだよ」
「俺は何もしていない」
にたにた笑ってんじゃねえよ。
最高に殴りたかったが、こらえた。ここは校舎の前だ。
「お前以外考えられない」
「ほお。そんなに善人に見えていたのか。光栄だな」
「はぐらかすな!」
「怒鳴るな」
拳を振り上げ胸ぐらを離した。振り上げた拳をなんとか下ろすと制服をぱたぱたほろっている鬼道を睨む。目が疲れていた。もうずっと眉間にシワが寄っている。
「とりあえず指導室に行こう。刑事さんが待ってる。そこで全て説明するよ」
「俺やっぱお前嫌いだわ。ボッコボコにしてやりてぇ」
「奇遇だな、俺もだ。フフ、両想いだな」
「きんも」

指導室では事の流れの説明と事情聴取が同時進行で行われた。不動は疲れていたが頭は冴えていた。話のわかる刑事で良かった。しかし保釈金についての説明は一切無かった。プライバシー的なもんか?
「刑事さん、俺、保釈金は…」
「保釈金?不動君、聞いてたか」
「は?」
「君は無実だ」
2時間に及ぶ聴取と説明はさすがに不動を疲労させ、終わった直後は鬼道の同席に対する疑問ばかりが頭に残った。
「今日は帰るわ…」
「送ろう」
髭面の刑事がそう言ってくれたのでそれに甘えることにした。
「無罪なんて…刺したのに」
「君、本当に何も聞いていなかったんだな。容疑者は別にあがったし、被疑者が大事にしたくないと」
「刺したのにか?」
「君じゃない」
車の走行音は眠りを誘う。頭を傾けるとシートベルトが頬に当たった。
「被疑者…被疑者というのも語弊があるか。君達には迷惑をかけたようだ」
「………」
「事の全貌が明かされればいずれ被疑者も容疑者になるだろう」
「そっスか」
「刺した子は…罪を償う事になるだろうが…」
「………」
「ホラ」
「あっ…」
信号が赤になると、刑事は鞄からビニール袋に入れられた不動の持ち物を投げて寄越した。
充電の切れた携帯電話と財布、定期、空の箱。
「その箱は…」
「いや、元から空」
「ならよかった。高価な物が入っていたんじゃないかと思ってな」
「………」
木造のアパートの前に下ろされるとドアのポストあら溢れて落ちた郵便物の固まりが見えた。
「鍵はあるのか」
「財布の中に」
「そうか。じゃあ、また、連絡が入るだろうから」
「どうも」
チラシを力ずくで引いて出してからドアを開けた。玄関にも鬱陶しい紙の絨毯が出来ている。催促状が来ていたので電気も水道も止まってるだろうと思ったが、案外集金も寛大らしい。
不動はベッドに寝転んだ。
買い物に行かなきゃ。光熱費も払わないと。家賃…どうなったっけ。連絡しなきゃなんない奴もたくさんいるし…

『…大好き』

友人の犯罪を庇い逮捕されたが結局ばれた。しかし全くの無駄ではなかったし次子にああ言われては無駄だった事を後悔する気にはなれなかった。










なんだかなー



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