2012/02/17 Fri 06:22

★ 単発連載《 箱 》F



※ リハビリ用/ある意味暴走
※ 誤字脱字放置
※ 専門知識無し



「お前覚えてるか。佐久間」
「…………」
鬼道は体の真正面に不動を見据えて座っていたが、不動は背もたれを真横にして、鬼道に一瞥も無く黙っていた。
「返事くらいはしろ。そんな態度をとられるいわれはないぞ、こら」
「……ハァー」
あんたの話は聞かないよ。
鬼道は不動の態度の意味を理解していた。鬱陶しいのだろう。
今不動が置かれている状態は全て不動の自業自得で、同情は一切もしていない。会わなければいけない事情があっただけのこと。こんな場所にわざわざ顔を見に来てやる程親密な友人ではない。むしろ仲は悪い。嫌いだし。バカだし。
「佐久間だよ。サクマ」
「知らねぇよ…」
唸るような返事。なんだこいつ。子供だな。むかつく。
「非情な奴だな…同じ学校の生徒だぞ?サクマサン」
「…女子?」
「そう、女子だ。思い出したか」
「サン付けすっから。そんだけ」
それを聞いて鬼道はため息。無駄足を痛感した。
「まあ、知ってるわけないか。お前もうちょっと愛想ってもんを身につけた方がいいな」
「うっせーバカ。ボンボン。消えうせろ」
「なんだ、元気じゃないか」
淡々と呟かれた悪態に鬼道は笑っただけだった。
自暴自棄になってるのかと呆れていたが、この分ならまだ暫くは元気だろう。さすがにいい気味だとは思わないが頭の良い奴がこういうバカをやらかすのははたで見ていて胸が痛い。
(いや、ちょっと違うか)
頭が痛い。
うん、そうだな。
「じゃあ帰れよ」
不動はすこぶる迷惑そうだ。こちらを一度も見ないのは、さすがにばつが悪いからか。
「また、」
「来るなよ」
「気が向いたら来る」
「来るな」
「安心しろ。気が向いたらだ」
鬼道が椅子を立ったと同時に不動も立ち、奥へ消えた。
こんな事でも無ければ留置所なんて縁が無い。
敷地を出る前に振り返る。不動は今、どんな部屋に居てどんな事を思っているのか。指輪の彼女は今どうしているのだろう。この事態を知っているのか。訊けばよかった。気になる。

不動が勾留されてから1ヶ月が経った。
いつまでも黙秘を続けて居るのはばかばかしい。非があるなら存外素直に認める性格であると評価していたが(開き直るとも言う)(そもそも、最初から悪いとわかっていてやらかす)犯罪となると逃げ腰なのか。また会いに行く気はしなかった。部活は毎日忙しいし、近く期末の試験が迫っている。
あまり心配もしていないが、らしくないとは思う。鬼道は…
不動が大事にしていたらしい恋人を探すつもりでいた。
もちろん期末試験が終わってからだが、恋人に会えば少しも意識が変わるのでは無いか。心配はしていないが、放ってはおけない。どう探そう。
不動に訊いて答えるとは思えなかった。名前も知らない他人の恋人を探す手立てはあるだろうか。
留置所の不動は動物園で見かける動かぬ猛獣のようだった。走ることも出来ない。与えられる飯だけ食って、監視されて過ごしている。
『好きなんだ』
会いたくないか、不動。
そこはお前の居る場所じゃないはずだ。思い切り走れるフィールドと、愛する彼女が待っているぞ。

「気が向いた」
「…帰れ」
勾留47日目。期末試験を終えて、鬼道は再び留置所の不動を訪ねてきた。
「差し入れあるぞ。小説、問題集、聖書」
「殴るぞ」
「彼女は来るのか」
「…あ?」
不動はよくない人相をして首をかしげている。この“あ?”は威嚇ではなく疑問のようだ。
「コイビト」
「来るかよ」
「知らないのか」
「知らねぇだろ。俺フラれてるしな」
俯いてがりがりと頭をかく。組んだ足が小さく揺れていて、態度とは裏腹の戸惑いが見える。
(つまり…捕まったからフラれたわけじゃないのか)
鬼道が黙ったので何を言われるのも避けるためか、不動が話題を切り出した。
「ところでこないだ言ってたヤツってなんだったの」
「こないだ言ってたヤツ?」
「誰だっけ。なんか女子」
鬼道は話を反らしてやったフリをして答える。そうはさせるかと思いながら。
「ああ、サクマサンか」
「ああそれそれ。どうしたん」
「さぁ。行方不明とかで」
「は?!失踪したってことか?!」
不動は大げさに驚いて見せる。この話題を続けさせるためか。
「そうらしいな。で、それより不動」
「ん?」
「まだ好きか」
「は?」
「お前の“塔の上のお姫様”をさ」



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