2012/02/07 Tue 14:55

★ 単発連載《 箱 》D



※ リハビリ用




鍵をなくしたと気付いたのはその日の夜だった。
しかし不動は探さなかった。どこかにあるさ、と楽観視して、再び鍵が必要になるまでなくした事さえ忘れていた。
「家の鍵か?」
「ちげえよ、とにかく、銀色で…ああくそ、キーホルダーもつけてねぇからな」
「大事なのか。合鍵は?」
背後で鬼道が不動の鞄を豪快にひっくり返す。遠慮の無い奴だ。本当に無遠慮な奴だ。
「すでに合鍵なんだよ」
「なるほど」
部室のロッカーを3回程くまなく探して体を起こす。細いロッカーに頭から突っ込んでいた体勢は首と背中に疲労を負わせた。胴をよじると穏やかでない音がべきべきと鳴る。黙々と鍵を探すことに没頭している鬼を見て、ふと思う。
「……気持ち悪ぃな、手伝うなんて。なんか企んでんのか」
「はは、お前突然だなぁ」
ぶちまけた不動の荷物をまた乱暴に鞄に投げ入れるなんともずさんな作業だが、一応手伝っている…つもりらしい。不満ありげな不動に気付いているくせに鬼道の雑な仕事ぶりは変わらなかった。
「お前鞄の底に砂たまってたぞ」
「あー…スパイクそのままぶっこんだりしてたからな」
「不潔だ」
「うるせぇ」
「これか?」
「!」
勢いよく振り返ると鬼道がまさしく探していた鍵を指でつまんで揺らしていた。
「それだ!どこにあった?!」
「内ポケットに穴が空いてた。裏地の間に挟まってたよ」
「んっだよ、みつかんねえわけだよチクショー」
はー、とため息をついてロッカーから出した物をまた乱雑に投げ入れる作業に戻る不動。鬼道が素直に鍵を渡すと疑いもしない行動である。
「で、何の鍵なんだ?」
「あ?いいだろなんでも」
「そうもいかん。例えば何か悪事を隠すための鍵なら渡せないしな」
「んなわけあるかよ」
舌打ちをすると鬼道は笑った。言わない限り返す気は全くなさそうだ。
「協力してやったんだからそれぐらい教えたっていいだろう」
「知りたがりめ」
「なに、ただの興味だ」
「オエ、」
スパイク、ボール、空のボトル、予備のタオル予備の練習着予備の靴下制汗剤。ぼんぼん投げ入れる度に奥に当たって鈍い反響がやかましい。
「お前みたいな何にも執着の無い奴が、そんなに一生懸命探す鍵は何の鍵なのか、気になるじゃないか」
高笑いでもしそうなくらい機嫌の良い声。楽しいらしい。
「…たからもの」
「ん?」
「宝物が入ってる箱の鍵だ」
鬼道が意外そうに目を丸くする。
彼の言う通りあまり物事に執着する質では無い不動に、なにか大切なものがあって、それを大事に箱に仕舞っているなんて、意外も意外。鍵までつけて。
「…へぇ」
「中身まで訊くなよ」
「………」
「宝物。それまでだ」
釘を刺すように言うと鬼道も諦めたようだった。肩をすくめて見せると、ちょっと笑って不動に鍵を手渡した。
「よっぽど」
「あ?」
「大事らしい」
「…まぁな」
受け取った鍵を制服の胸ポケットに入れると鬼道がベンチに散らかした鞄の中身を適当に集めて鞄に放る。
「これは?不動」
帰り支度が済んだとばかりにドアに向かう不動を呼ぶ。鬼道の声は得意気だった。
「……なに」
「これも大事なものじゃないのか」
「………お前な…」
性悪。
鬼道の手には“先手”がきちんと握られている。
「プレゼントか?」
「返せよ」
「“宝物”が何か教えてくれたら」
「クソヤロウ」
侮蔑の声も余裕でかわして、鬼道は“先手”を揺らして見せる。
上品な包装の小さな箱。
それは不動の大事な宝物に贈る、一世一代のプレゼントだった。





きどうさんとふどうさんは仲悪い仲良し



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