2012/02/06 Mon 03:24

★ 単発連載《 箱 》C



※ 意味なし。リハビリ用。
※ 今さらだけど高校生ですよ
※ こっから若干別物(あとがき参照)



あの奇妙な夢を見てからから4日経った。
それでも時々どうしても、鬼道を奇異の目で見てしまう。それくらい強烈で、異質な夢だった。鼠が刺されて死んでる箱なんていうのは自分のどっからわいたもんで、それがどうして鬼道なんかと結び付いて夢に現れたのか。
夢の中の鬼道は本物よりずっと上ずった気質で気味が悪かった。

「お前俺のことおかしい奴だと思ってるだろ」

今、現実目の前の鬼道は淡々と言ってパンにかじりつく。
言葉の意図をはかりかねて、不動はぽかんと黙っていた。鬼道がそんなことを言い出す人間だとも思っていなかったから少し驚いていたのもある。
「…は?」
「………」
パンを頬張る鬼道を存分眺めてから、意味がわかりません、と伝わるような返事を投げる。よくもそんなただただ甘いパンなんか、飲み物もなくて食ってられる。鬼道がむちむち頬と顎を動かす度に胃にたまるぬるいチョコレートを思い出して胸くそ悪い。
「“来ない同級生”」
「…あぁ、それ。
別に?なんで?」
「訊いてみただけだ」
「イイじゃねぇか。そんだけの女なら抱いてみてぇなと思うぜ」
“下衆が”
幼稚なパンにかじりつく男がにらんでくる。その目が不動を下衆と言う。わかってるよ。聖女だもんな。
「…それに箱の話」
「………」
「………」
「……それって」
(夢?)
「鼠…」
「!っ、ああ──……
えぇ─────……?……
夢じゃねーじゃーん……」
「………」
鬼道はちょっと訝しげに不動を見ると、最後のひと口を口におさめてパンの入っていた袋を縮め、1回結び、ころんと机に投げ置いた。
「なにが?」
「…その話夢だと思ってた…
キモイ……」
不動はゆっくりうなだれた。机に転がされた透明な袋から、ぷうんと安っぽいチョコレートのにおいがする。
「お前に話したはずだよな」
「一緒に見てはないよな」
「はぁ?5年前の話だって言っただろ」
鬼道が袋を指で弾くと袋は回転しながら不動の肘に当たって止まった。
「…じゃあ…
なるほどな」

昼休みに鬼道から鼠の箱の話を聞いたところまでは現実の出来事で、その後の、
ほうかごきどうくんといっしょにかえって、そのかえりみちできどうくんとねずみのしがいがつまっただんぼーるばこをみました。
これが夢。
だいたいおかしかった。鬼道はほぼ毎日、家の使用人に車で迎えに来てもらって帰るのだ。そして自分は徒歩通学だし、鬼道の自宅とは逆方向。
人間は時々わけのわからない錯覚を起こす。
前後の出来事を分離できなかったのは夢の導入が自分の記憶に無いせいだろう。いつ寝たのかわからない。そして今も全く思い出せない。
「へぇ…おもしろいな」
「直前に聞いたから夢なんか見たんだろうな。しっかし境界線がわかんなかったっつーのは」
「貴重な体験じゃないか?」
それを聞くと不動は笑って地味、と呟く。確かに面白い体験とは思うが今でも全て白昼夢のようでぴんとはこない。そして貴重な体験をしたなぁと思うには、あまりにも日常的で地味だった。
「そもそもなんであんな話」
「鼠の話か?今更だけどカエルも居たぜ」
「それはいいから」
「なんでかな。忘れてたんだよ、俺も」
とりたててきっかけもなかったが、思い出してしまったら気持ち悪くて気持ち悪くて、とにかく誰かに言いたかったらしい。不動は被害者だ。見事に鬼道と気味の悪さを共有した。
「やってくれるぜ」
「意外な効果だったなぁ」
にやにやと楽しそうにする鬼道を不動はうんざりだと睨み付けた。

「お前やっぱり、おかしいな」

それを聞くと鬼道は嬉しそうににたりと笑って、“彼女は今日で20日も休みだ”と、感嘆のようなため息をついた。



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