「お疲れ様でした、日向君」


「今日はロードだけだったから疲れっちゃあないんですけどね。あ、荷物」


「……ねぇ、訊いて良いかしら」


「……?どぞ。何で改まるんですか。オレなんかで良かったら」


二年部員全員で体育館を出るとそのまま帰路を辿るのも同じで…、勿論カントクである相田リコは貴女と手を繋いだまま。
凄く出来た話だか、最後まで方向が同じで途中からは二人切りで帰れる。
住宅街には街頭が数メートル間隔で点り、街路樹である桜が咲き誇る中だ。
桜並木の通り。
貴女の学生鞄を持つと結構な重さに吃驚する。
きっと置き勉とか絶対にしないタイプだよな。


「如何していつも持って下さいますの?重たいでしょう。日向君のお荷物の方が多いですのに…」


「重たいから持つんですよ。てか、オレが持ちたいし」


「何故…?」


「だってオレ、先輩が…………いや、カントクから無事に送り届ける様に言われてるしな。こんな重たい鞄持って帰んの大変だろーし。あんま深い意味はないですよ」


「……そう、ね。うん。有難う、日向君」


「いやいや。あ…」


「ん?」


「髪に桜の花弁付いてますよ。黒髪だからピンクが映えるな」


「……ねぇ、日向君。彼女さんとかいらっしゃらないんですか?」


ざわざわと木々が揺れ、散り掛けている桜は枝を離れて風に舞い、貴女の髪を掠いながら数枚花弁を纏う。
立ち止まった俺は貴女の頭に手を伸ばし、張り付いた桜を取ってみせると上目遣いの貴女と視線がぶつかる。
彼女はいないのか、俺に訊くなんて…何を考えてんだ。
貴女にあんな事させる、して貰うんだからいないに決まってるじゃないか。
いや、いたら浮気じゃね?
つーか何でンな切ない顔すっかな。
うわ、瞬き一つしないとか……。


「訊いてどーするんですか?オレに彼女がいるか如何か」


「ん−……いらっしゃる様ならば、立場考えなくてはって思って。だって、可笑しいものね。こんな関係」


諦観する様に視線は更に上を目指す。
俺の視線から額、髪、桜の木を通り抜けて真っ暗闇な空。
細い三日月が貴女の瞳に宿る頃、諦めた様にくすりと笑う。
まるで馬鹿みたい、と呟く様な。
時々こんな時がある。
家迄送り届ければ切なそうに呟くし、こんな日は諦めた様にまるで明日世界が沈没若しくは破滅すんじゃないかって位"如何にもならない"っていう様な。
ざわざわ、引っ切り無しに風が邪魔して貴女の髪を拡げるもんだからまた桜が絡まった。
腕とかちょっと怠くなって、いつの間にかエナメルバッグやら貴女の学生鞄とかコンクリートの上に放置。
一向に視線を三日月から離さないもんだから、中学の時に古典で習った竹取物語を思い出した。

まるでかぐや姫か。

さっきの質問、じゃあ俺に彼女がいないなら如何するのだろう。
キスとかセックスとか許す関係になってくれる訳?
そんなの待たずともセックスなんてどさくさ紛れできっと出来る。
いつものご奉仕の後で押し倒しさえすれば楽勝だろう。
でも、しない、やらない、出来ない。
そうだ、泣かせたくないし、嫌がる事したくないし、こうやって一緒に帰れなくなるのは避けたい。


でも、限界もある。


「っ、んン?!ふ…ぁ、」


カシャン、眼鏡が落ちてしまったけれど今はこっち優先。
腹立つから顎を掴んで口唇押し付けた。
急に酸素を奪われる感覚ってどんなだろう。
あ、凄ぇ柔らかいんだな口唇、舌突っ込みたくなる、
啄むだけじゃ足りなくなる。
肩に掛けた手は貴女の皮と骨の肩にギリギリ力入れてしまう為に痛むかも知れない。


「xxx先輩、」


「ひ、……ぅが君?」



「これでも気付かないなら、もうあんなコトしなくて良いですよ」







上手く笑えてるかな、俺。









三日月
Serenadeを君へ








(俺の目に三日月の瞳が映る)
(惑わすには切ないだろ、コレ)
(好きなのに、…)






fin…xxx
2009/04/08:UP



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