雲の上の逢瀬



ワシの彼女歴、一体君は何年ですか?


そう訊いて仕舞ったのはお前を組み敷いている今、状況。
付き合い初めて早数年。
はっきり言って会う機会も中々なく、一年に会える回数は数え切れる程だ。
良くこんな会わずにいれるな、と思った。
会えない日は確かに辛い時は辛かった。
だが、会ってからの感動という反動に病み付きになって仕舞った後には、別に毎日会ったりせずとも、自然に遠距離恋愛の様な物を楽しめた。


そんな日々の中、ようやく会えて抱き寄せる事が出来、夜の営みに縺(モツ)れ込んだ。
しかし、君と来たら初めてという訳でもないのに慌てふためいて、ワシの胸元を押して距離を取る。
キス一つ出来やしない。




「なぁ、手、邪魔やねんけど」


「知りませんよ…。だって突然過ぎません?」


「あんなぁ、ワイも男やねんて。一体何年待てばええの?つか待たせんな」


「ストップ!!突然過ぎます。珈琲飲んでからでもっ。折角ケーキ焼いたのに」


「ワイは甘い物よりお名前の方がええって。

手、退けてくれ」


「い、や!!」




了いには切れるで、ほんま…


ワシはギシリ、とスプリングを鳴らし、君から取り敢えずは退けてみた。
据え膳食わぬは何とやら。
悶々とした気持ちを何処で発散させるべきか少しばかり悩んでいた。


そんなワシの備考を擽ったのは少しばかり香ばしくも、甘い香り漂う何か。
君がホールケーキを切り分け、ワシの分と君の分と皿に乗せては機嫌良く鼻唄混じりに差し出してくれる。


仕方なしにケーキに舌鼓を打つ事にして、ワシは椅子に移動。
にっこり笑って「どーぞ」なんて首を斜めに傾ける為、さらりと髪が落ちた。




「そう言えば、七夕、今年は晴れましたねー」


「七夕なんて興味あるん?」


「んー…ある事はあり、無いと言えば無いですね。天の川、地上は雨でも雲の上には晴れてるでしょう。なら会えるじゃないですか」


「…案外現実主義やな、お名前」


「昔からそんなトコが可愛くない、なんて言われますけれど…。一年に一度しか会えなくて、好きならば洪水だろうと何だろうと会いに行くでしょう?雨なんかに負けていられませんよ」


「何や、真剣やな」


「織り姫と彦星は一年に必ず会えますけれど…私達、二年会えない日があったでしょう?今日だって今吉さん、夜からお仕事ですし…」


「まさか拗ねてん?」


「いえ。別に……」


「拗ねとるやん」


「んー…多少なりとは」


「ははっ」


「笑います?そこ」




ケーキを頬張り自画自賛しながらも、会えない事に屈託なく拗ねる。
笑って仕舞ったのには理由があって、会えない不安を多少なりとも寂しく思ってくれてるのだ、と嬉しくなったからだ。


これからはもう少し、せめて3ケ月に一度は会う機会を設けよう。
でなければ、自分も寂しい。




「なぁ、お名前」


「はい?」


「好きやで。ほんまに」




ケーキを一口突き刺して、君の口に運ぶ。
優しくそう伝える。
すると直ぐにほんのり桃色に染まる笑顔が零れた。




fin…xxx
2012/07/08:UP
2012:七夕の短冊に願いを懸けて

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