ペンギン連れて

大きくなったら、お姉さんをお嫁さんに貰うんだ。
だ…なんて言ってた自分が懐かしい。
近所のお姉さんは俺より5つ年上で、幼い頃から付き纏う様にして後ろを付いて回り、しょっちゅう抱き上げて貰っていた。


でも今じゃ逆な訳で…。
背丈も何もかも俺の方が高くも大きくもなって仕舞い、貴女をこうやって抱き上げる事が出来る。
昨日は月収を見比べて俺を嫌いだとか何だとか悪態吐いていたか。




「ねぇ、黄瀬君」


「何スか?お名前さん」


「そろそろ降ろしてくれないかしら?お姫様気分はやっぱり性分じゃないわ」


「…嫌っス」


「我儘言わないで?仕事山積みなのよ。新人が3ケ月続かずに辞めて了って、私に回されたの。データ明日までに作成しなくちゃ、部長に怒鳴られるわ。ね?お願い」




お姫様抱っこが憧れだとか乙女な事を言うので、オレはしてあげるよ、という事で、抱き上げているのだが、三分もしない内から足元をパタパタと僅かに動かして抵抗を見せる。


嗚呼、もう、頬っぺた膨らませるところは変わっていないなー…


オレは頬を擦り合わせる様に貴女の頬に自分の頬を擦り寄せ、口唇を宛がい小さくちゅ、と音を立ててみせた。
その途端、真っ赤な林檎みたいな顔をして、激しく抵抗を見せた。
その所為で降ろして仕舞う結果になり、残念だ。
本当。




「小さな時は可愛かったのに…」


「お名前さんは相変わらず綺麗スよ?」


「…仕事上、化粧品会社に勤めてるのだから当たり前でしょう。女は化けるのよ」


「お名前さんのすっぴん知ってるけど。て言うか、今もっスね。すっぴんは」


「……笑顔で言わないで頂戴な。はいはい、退けて下さる?お仕事が山積みって言って…


る、側から何をなさるの?黄瀬君」


「名前で呼んでよー。お名前さん」


「知らないわよ」


「どうせ結婚するんスから良いじゃん」


「……え?」


「小さい時、オレが小学生でお名前さんが中学かな。その時に俺、プロポーズしたじゃん?そしたら良いよ、って言ったのお名前さんスよ。

まさか、忘れたとか言わないっスよね?え…まさか本当に忘れていたの?」




しまった…、とても言いた気に、貴女がオレから視線を逸らす。
如何仕様、ちょっと本気でキズ付いたかも知れない。
背後から腕を回していると、貴女が素知らぬ振りで誤魔化そうとするものだから、思い切り抱き締めてやった。
腕の力を込めると、苦しい…と抵抗するが、断じてこの腕を離さない。




「私でなくても、女の子は沢山いるでしょう?」


「でもお名前さんは一人じゃん?」


「あら、世界中探せば幾らでもドッペルゲンガーになるかも知れないわ」


「でも、オレはこのお名前さんが良いんスよ。もう、判ったら?つか、観念するっスよ。離す気なんか更々ないんスから」




プロポーズはプロポーズだ。
あの時の約束を覚えているか否かは如何でも良いが、オレはちゃんと指切りまでしたのだから、叶える気満々。




「……ウェディングケーキは全て食べれるのが良いわ」


「勿論」


「ドレスはミニ丈が良いですし」


「生足かぁー。良いっスね!」


「ペンギンをお散歩させたいですし」


「良いサプライズっス」


「ブーケトスも外せない」


「当たり前」


「…全て叶えて下さるの?」


「勿論。オレは構わないっスよ」




何だ、嫌々言ってる割には、こうやってプランもしっかり立ててるんじゃないか。
何か、嬉しいかも知れない。




「じゃあ…しようかしら。黄瀬君と」


「涼太って呼んでよ」


「そうね。…涼太君と結婚式か…。まぁ、良いわ。その代わり、ペンギンは譲れない!!」


「…そんなにペンギン好きだったっけ。お名前さん」




ぎゅう、っと今度は全身で抱き締めると、頷きながら貴女がオレの頬にキスを一つ。
人間、嫌よ嫌よも好きの内、らしい…。




fin…xxx
2012/06/21:UP
2012:ハッピーウェディング♪


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