熱が雨を攫う



手首を握ると、貴女は出て行こうとしていた意識をボクに向ける。
軽く拒絶を被っていたボクに意識が向けられ、胸を撫で下ろしていた。
そのままの姿で出て行かれたら、きっと風邪を悪化させるだろう。

喧嘩をした訳ではない。
別れを貴女から告げられた訳ではない。


けれど、酷く高熱の貴女はボクの腕から外れ様とする。
お決まりの柔らかい微笑みも、少し寂しい。
いつもの合図がないからだろう。










「お名前さん、お名前さん。外行っちゃ駄目です。ね?」


「……お水…」


「あ、はい。ボクが買って来ます。ね?そんな格好じゃ外にも出られないですって」


「……、黒子君…」


「はい?」


「……ごめん、なさい…








ズル…っ-----!









今にも泣きそうな薄い表情は、そこで途切れる。
寝間着姿の貴女が崩れ込んで来るもんだから、力任せに抱き締めた。


細い、細い。
熱に抗う様に吐息は荒々しく、小さく動く口唇は何かを呼ぶ。
耳を澄ましては、いけなかった。
崩れたにも関わらず、シャツの裾を握る指先。
それが、まぁ愛しくて仕方なく…。


ベッドに横たえ、うっすらと汗が滲む額に掌を宛がうと、更に高くなった熱。
溜息を零したボクに、聞こえて来た窓の外の気配。
こんな風景の中、もし貴女が出歩くというならば、ボクは泣くかも…知れない。









「また雨ですよ。お名前さん、本当は雨女ですよね」









くすッ、と苦笑してみせるボクの視線は窓から外れて君に向かう。
好きだ、も…もしかしたら、お互いに愛してる、も…ない僕達。
たまに会って(会えない場合が多いのだが)、キスを躊躇いながら交わし、暗闇の中で肌を重ね…。
愛しさ余って強引に理性散り散りになったボクに、預けるものは何だろう。











「雨が上がったら、本格的な夏が来ますね。お名前さんは夏嫌いだったかな…」









憂鬱な梅雨が上がれば、太陽が降り注ぐ夏真っ盛り。
夏風邪は馬鹿が引くだとか言うけれど、引けば治り難いとも言うけれど…。










「雨が降れば、夏でも涼しいですよ。…お名前さん、早く治ってよ」











デートは潰れて、街はびしょ濡れ。
この四角い部屋で二人切りで、熱にうなされる貴女の掌を握れば伝わるものだから、結局ボクも同じ体温。
ミネラルウォーターを購入しに行かなければならないのだが、雨は止む気配を知らず…。
貴女はボクから外れようとした先程とは打って変わり、今となっては放そうとはしない訳で。











「愛してる…って聞く訳ないですよね。


…夢見てるんですか。ボクの事呼んで。全く、これ以上溺れさせて如何するんでしょうね?お名前さん」











一層激しさを増した雨模様。
ボクの言葉はその音に掻き消され、沈黙が訪れた。




残されたのは、眠る貴女に掌を握られたボク。







fin…xxx
2012/06/17:UP
2012:梅雨前線より夢を籠めて

[ prev / next ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -