舌先で互いに移して、与える甘味は苦味も含ませ、辿り着く先は何処。



スーツの上着の内ポケット。
緑のジャケットのポケット。
そして、再度スーツの上着のポケットの中。

今日から本格的な任務だ。
自分に危害が与えられるのは構わない。
回避出来る術(スベ)も自負もある。

が、今まさにコーヒーを淹れてくれているお前には、絶対に加えられてはならない。
シャツのカフスを留めて、上着を直ぐに羽織れる様に準備だけ済ませば、お前から声が掛かる。

そうだ。

一昨日、同僚から貰った物。
溜め息混じりで大きく息を吐けば、貰った物。
飴玉の包み。
子供から沢山貰ったのだという。


「今日は帰宅が遅くなるのですか?」

「そうだな。早く帰りたいんだが、今日はそうもいかないだろうな。重役との会議もあるし、新しい業務の顔合わせもあるんだ」

「そうですか。夕飯は如何します?作ってはおいていても宜しいですか?」

「あぁ。帰りが遅くなってもお名前の飯の方が食べたいからな。遅くなれば腹も空くし。取っておいてくれないか?」

「嬉しいお言葉です。判りました。では、テーブルに置いておきますね」


新聞を広げ、一通り記事を浚い、珈琲を一口。やはりは鼻から抜けるこの薫りはお前が淹れてくれたやつが一番だと、ほっとして仕舞う。今日の朝食は洋風のようで、昨晩拵えていたであろう豆乳パンが旨かった。

出掛ける手前、上着を羽織った際に、そう言えば…と思い出す。ポケットを探り、小さな個包装を開ければ、薄い黄色の小さな飴玉。俺は自分の口に入れれば、舌先で味が広がり、グレープフレーツの味がする。


「お名前、」

「はい」

「やるよ」


え…------、と首を傾げる前に、玄関先の壁越しに追い詰めて、お前の頬に触れる。そのまま顔を近付け、思考が回らないお前の口に噛み付くように。口唇を押し付けて、舌先で抉じ開けて、飴玉を移し替える。

飲み込まないように、互いの舌を絡ませれば、じわじわと唾液が溢れて、俺の口にも一杯にグレープフレーツが溢れてく。

両手でお前の頬を包み込んで、このキスに全てを持って行かれそうになっているお前。力が抜けていく両足は、俺の足を挟んで辛うじて保っている。

嗚呼、このまま抱いて仕舞いたい------

そう思って仕舞っている。出来れば、このまま仕事なんて放っておいて、お前を滅茶苦茶にしてやりたいと思っている俺がいる。

未だにキス止まりなのが、自分でも不思議だ。


「…っ、…は、ぁ…」


ちゅ、く…ん。
名残惜しくも解放してやれば、口唇は厭らしい音を立てて、お前の口から唾液を垂らして顎を濡らす。瞳はトロリ、溶けていて、頬は熱っぽい。


「同僚から飴を貰っていたんだ。お名前にやろうと思っていたんだ」

「っ…普通にください…。このようにされたら…」

「ハハッ。すまん。したくなったんだ。お名前に」

「したくなったって?」


「キスを、な。じゃあ、行って来る」

「キ…?!っ…行ってらっしゃいませ!」


顔を伏せて、羞恥を乗り越えながらも、俺がドアを開ければ桃色に染まった恥ずかしがる顔で見送ってくれる。本当に、仕事に行くのが勿体なくなる。


朝から見送って貰うのは、とても良い。




fin…xxx
2013/12/01:UP




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