ふわっふわの、深いブルーの毛並みを撫でた瞬間、直ぐに衝動買いをした。
3歳児程の大きさもあるテディベア。
深紅のリボンを首に付けたベアを差し出せば、溢(コボ)れんばかりに瞳を丸くして、ゆっくり瞬きを繰返した君は、俺に腕を伸ばして来る。
桃色の指より3ミリ程のスクエアに整えられた爪には、今日はプラリネが咲いている。

気に入ってくれた様で、俺の足元でぺたりと座り込んだ君はベアを抱き抱えると腕をクイクイ動かしながら、顔を毛並みに埋める。
視線が合えばニッコリ笑うもんだから、つられて仕舞った。


「君が抱えると、やっぱりデカイね、そのテディベア」

「ふわふわですね」

「でしょー。君に触れる物だからね。うんと柔らかいの選んで来たんだよ。リボンは黄色もあったんだけど、深紅の方が情熱的だからね。何だっけ?黄色ってさぁ、嫉妬とかばっかりだよね。花言葉の印象」

「…ええ」

「あ、でも向日葵は好きだな。凛としてるよね、一本の大輪の向日葵は良いよ。一途に一心に太陽に向かう」

「…そうですわね」


太陽の神アポロンに不毛と知りながらも恋をした、海の精の娘クリュティエ。
しかし、アポロンには抒情詩の女神、カイアラピがいた為に報われる事は無かった。
9日間もの間、自らの涙と露だけを口する体は痩せ細り、足は根付き、空に駆ける想い人をただただ、見詰め続けたとされるギリシャ神話がある。


「来年の夏はあげるよ。向日葵」

「そんなに大きな花瓶あったでしょうか、このお家」

「無かったら買うさ。でも、向日葵の前にあげようと思っていたんだよねぇ。そのテディベアもだけれど、あっちが本命」


恭しく、君にスっと右手を差し出せば、不思議そうに首が傾き、俺より小さな指先が伸びる。ソファから立ち上がる僕、ラグから立ち上がる君。
名残惜しそうに視線をベアに伏せたが、君は俺の為す侭(ママ)にシースルーになっているオーバニーの足で着いて来る。
寝室までの道程。


「どうぞ、お姫様」


深いブルーのシーツの真上。
君は俺からゆっくり離れ、シーツの上に乗り上がり、恐る恐る透明のパラフィンに包まれた花束を抱えた。潰さない様に、しかし、しっかりと君自身が隠れて見えなくなる程の大きな花束。

不意に一度手放したかと思うと、右手の人差し指で一心不乱に指差し出した。
小さく小さく唇が動いていて、首を右に左に小刻みに動かす。
何度も何度も。
数分経っても同じ様に指差すのだが、一向に終わりに向かいそうに無くて、もう、余りに必死になり出すもんだから…。


必死過ぎるでしょ?


「あーあ、もうさぁ」

「甘利さん、……何だか…終わりません…」


答えは何本ですか、なんて必死に数えても辿り着かなかったらしい君は俺に花束を差し出し、肝心の君の顔が隠れて仕舞っているじゃないか。
俺と言えばその花束を掴み、崩れない様に君のディスプレイゾーンと化している丸テーブルに深紅が判る様に静かに手放す。

俺に近付こうとシーツの上を這いつくばりながら進むが、バランスを崩し、危うくベッド下に落下しそうになる。
咄嗟に片足だけ乗り上げて君を支えれば、ごめんなさい、と普段と変わらない細い声でしがみつく。
間に合った事に安堵していると、胸に飛び込んで来た君は俺の胸元から顔を上げ、正解は何本ですか、と上目遣い。


「101本だよ。特注したんだけど、大きけりゃ良いって物じゃないよな。こんな物じゃ、君に対しての愛情は伝わらない、か」

「永遠への到達…」

「知ってたの?流石、俺の奥さん。博識だねぇ。

…そう、永遠への到達。でも、それよりも俺は君に違った意味で贈ったんだよ。でも、独り善がりな気持ちを押しつけてるだけだからさ。気にしなくて良い」

「ドライフラワーにしたら持つかしら」

「枯れたら捨てなよ。欲しかったら毎日贈ってあげるから」


桃色のベビードールのホルターを解き、肩のサテンリボンも解こうとしたが、止めた。
君の手を取り、俺の胸元に押し当てると、笑い掛ける。
俺の目を見詰めた君は静かに悟ると、口唇を俺の額に添え、細い指先で俺のベストの釦を外し始める。
一つ一つ、丁寧に。


「ベストだけで良いよ。今夜は着たままで」

シようよ、貪りたいんだ、君を。



Fin…xxx
2016/10/13:UP

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