Key of Life06(7/43)




指先に絡めれば、直ぐに滑り落ちる程に滑らかな髪。
懐かしさ…いや、恋しさに触れた途端、胸は締め付けられる。
もう一度指先に絡めると、俺は言った。
オマエの瞳を見詰めて。
変わりやしない姿を。









「綺麗だよな…本当」









みるみる内に頬が桃色に染まり、ふんわりと微笑む。
胸元で片手を軽く握り、口元を照れ隠しで隠しつつ…俺を見詰め返すは濡れた黒い瞳。










「有難うございます」









今、抱き締めてしまおうか-----









けれど、そう伸ばし掛けた腕。
オマエが小さく動いてしまい、バサリと何かが落ちた。
レースがあしらわれているブックカバーの文庫。
俺は抱き締める腕が、煉瓦畳の地面に向かってしまった。
オマエを俺が見付けてしまう際には、必ずこのブックカバーだ。










「すみません、外山先生」


「いや。これ、いつも読んでるよな。本は一緒なのか?」


「えぇ。もう何十回目かしら…読むのは」


「へぇ。何て本?」








「逆鏡(サカサカガミ)っていうんです」










胸元に大事そうに抱えると、不意に切ない顔をする。
俺は「どんな話?」と促すと苦笑を浮かべ…。











「お話…しても大丈夫ですか?私、この本のお話すると長くなるので。欝陶しく思われるかも知れませんし」


「いや。明日休みだしな。俺、彼女とかもいねぇから暇なんだよ。良い歳こいてんのによ。だから良いんだって。



どんな話?」










嘘吐き。
ただ、オマエの側から離れたくなかっただけだ。
素直に告げられたならば、どんなに楽だろうか。
脚を軽く組むと、ベンチに深く座り込む。
雨は次第に酷くなり、風はないが冷ややかな空気は変わらない。










「寒くねぇ?そんな薄着で」


「寒い………かしら。けれども、我慢出来ない寒さではないですし。でも、圭介には怒られるかも知れませんわ。免疫がないんだから〜…と。でも、重ね着って苦手なんですの」


「ごわごわすっからな。


でも…






やっぱ風邪引くといけねぇから」













自分のコートを羽織らせれば、驚く表情を見せる。
直ぐ様遠慮して返そうとするが、それを制しては俺は受け取らなかった。










まるで、戻ったみてぇだな…
あの頃みたいに----









嬉しかった。
話し出すオマエの真横に、自然にいれる事が。
俺の香りに包まれてくれる事が。
ちらりと覗いた横顔は小さく口唇が開き、表情を変化させる。
抱き締める代わりに…俺のコートがオマエを包む。











なぁ、そのまま俺の匂いが移っちまえば良いのにな-----











なんて、束縛が生まれる。
けれど、オマエは俺を忘れていて…。




そう、だ。
恋人同士だった日々を失ったオマエに、俺だけ取り残され…今でも前に進めない。
寧ろ、現在進行形でオマエを










愛してる----。
















愛してた


その涙さえ




ぬぐえない



この胸の奥










愛してた
その涙さえ












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