Key of Life05(6/43)




外来も終わり、がらんどうとした北洋。
今日は早上がりの為、着替えを済ませばさっさと帰宅しようとしていた。
コートを羽織り、一歩外に出れば冬独特の冷ややかな吸い辛い空気の粒子が舞う世界。
雪に成れずに降る雨は霙。
傘を広げ、数歩歩いた道…何故こうも目に入り込むのか。





そして、何故足を止めてしまうのだろう。
俺も。











「ぁ………。お久し振りです。ぇと………」


「……外山。な、俺の苗字」


「そうでしたわ!外山先生……。私、何て失礼な…救って下さったお医者様のお名前も忘れるだなんて。すみません」


「いや、別に」











ゆっくりと面(オモテ)を上げれば、俺の瞳と会う。
読み掛けていた小説を閉じると、スカートの裾を気に留めながら立ち上がる。
ゆっくりと頭を下げ、微笑んだオマエ。
俺は立ち往生で…見詰めたままで、オマエが不思議そうに小首を傾げているではないか。
屋根がある此処では傘は不要で、俺は挙動不振に為りそうになりながらも至って自然を装って畳んでしまう。



さぁ、如何仕様か。




一歩ずつ、オマエに近付くと…それだけで鼓動が煩い。
ドキドキと心拍数は上がる様で、見詰めた先にオマエがいるとなると背筋が張る程の緊張を誘われた。
バッグを左側から右側へ移動させると、どうぞ…と掌で誘導させられる。
流れでその指定された場所に座り混めば、オマエも隣に座る訳で…。





隣----。




足元からゆっくりとオマエを見上げて行けば、バチリと瞳が会う。
俺はその瞳に吸い寄せられる様に離れられず、ただ、見詰めていた。










「お疲れ様ですわね、先生も」


「ぇ……」






ス…----










「隈が出来ておりますもの。お医者様は大変」
















壊れない過去
綺麗な思い出



心の中に
並べて














呼吸を忘れた瞬間。
冷ややかな指先でそっと目元に触れると、癒す様に微笑みを零した。
ゆっくりと瞼だけで頷けば、「本当に大変」と…呟く。
するとフラッシュバックするのは過去になったオマエ。
紅い口唇で俺の名前を呼んで、癖の様に頬に触れては…。











泣きそうだ-----











「ぁ………ごめんなさい。私、触れてしまうの癖みたいで…」




「不安。だからだろ?目の前にいる奴が…紛い物じゃないか」


「…………如何して…ご存知ですの?外山先生、凄く観察力に長けてますのね。驚いた」












素直に零れんばかりに瞳を丸く開き、俺を見詰めて感心する。
帽子のツバを両手で持っては深く被り直し、他愛ない話を続けて行く。
一方的なオマエの声音はとても心地が好く、俺はたまに頷くしか出来なくて…酷く詰まらないだろうな。













「外山先生は、何科のお医者様ですの?」


「俺?何科に見える?」


「ん〜…、小児科医ではなさそうですわね」


「小児科医じゃねぇな。俺、ガキ苦手なんだよ」


「ぁ!アレですわね」


「さぁ、何だろな?」




「脳神経外科医ッ!!」







「ッ、ハハハ!!何か良い線だけどよ。自信あるとこ悪ぃけど、違うな。


血管外科医だよ、俺は」


「……血管…ですの?」


「ククッ。そうそう、その血管な」











俺が答えると自分の手首を見ると、きょとりとした瞳で俺を見る。
愛くるしくて、思わず髪に指先を伸ばす。










サラ…-----











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