ろく(28/43)
夕方5時、湘北でのバイトが終わり、携帯を開けば数件の新着メール。
その中の一通は午前2時過ぎで、私はそのメールを先に開いた。
「##name1##、」
私服に着替え、ドアの前でチェックしていた際、不意に名前を呼ばれたので振り向いた。
外来も途絶え気味になりつつあるこの時間帯、青い医療着の藍沢さんが軽く駆けて来た。
「藍沢さん」
「時間あるか?」
「メール下さっていたのに気付かなくて…。大丈夫です。もう上がりですし。藍沢さんは?」
「俺も上がれる。待っていてくれ」
「こちらにいますね」
静かに頷いた彼は私に背中を向けて行く。
その背中を眺めながら、見送ると他のメールもチェックする。
その一通に誠二さんのメールがあり、開いてみれば所在を問う内容。
私は藍沢さんの言葉を過ぎらせ、カチカチと返信を打つと送信ボタン。
『友人と会って来ます。少し帰りが遅くなるかも知れません。』
それから壁に背中を預けていると、藍沢さんが悪い、とわざわざ駆けて来てくれたものだからクスリ、と笑って仕舞った。
私が見上げなければならない背丈は本当に男性だ、と再確認。
「今日は車?」
「いえ。徒歩です。昨日、少し考え事があって…纏める為に歩いてみたんです」
「##name1##のマンションからだと…結構掛からないか?」
「40分程…かしら。でも、お蔭様で考え事はバッチリ纏まりましたし」
「じゃあ、俺が送る。もう暗いし」
自然と駐車場に足が向かい、彼は私の荷物をいつの間にか片手に持つ。
いつの間に…
自分でさえ気付かない。
助手席に乗り込む様に告げ、自分の荷物やファイル等を後部席に乗せ込み、自分も乗り込む。
お礼を述べれば言う程の事でもない、とエンジンを掛けて私を見詰める。
その視線が普段より強く、私はおどおどとして仕舞い口を開いた。
「あの…藍沢さん?」
「…悪化してないか?」
「何がですか?
ゎ……あの、藍沢さ
「緋山から貰ったんだ」
腕を余りに近付けられ、慌てふためくと、その指先で顎を掴まれた。
その行為が解らず、彼の目を見詰め返す。
「じっとしてろ」
そっ…-----
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