Key of Life-19(20/43)





「お詫びも言えないのかしら…」




ボックスクッキー、ミートパイ、アップルパイ、オペラ、フルーツゼリー…。
この二週間で作った様々なお菓子の行列。
丁寧にラッピングを施し、お詫びのカードを添えて、もう14日過ぎだ。
何度か足を運ぶ医局にも擦れ違う様にして、出会う事は出来なかった。


たまに背中を見付けてみるものの、如何やって声を掛けて良いものか分からない。
足踏みする様にその場に立ち尽くして仕舞う。

それに、妙だった。

トヤマ、という苗字を口にすると決まって警鐘の様に頭痛を引き起こす。
苦しく、痛く、戸惑って仕舞う。




まるで、貴方を私は知っている様な気さえして仕舞う。




バイトも定時を迎え、少し冷やかな通路を過ぎる。
はしたない、と思いながらも板ガムを一枚口に入れ、数度、口を動かせば仄かに甘い味が口腔に広がる。
私は機嫌良くバッグを持つ手と反対に携帯を持つと、圭介にメールを入れようとした。
今日は娘様も交えて食事をしよう、と言われていたのでメニューは何が良いか聞きたかった。
携帯のキーに指を滑らせていた矢先、不意に誰かと擦れ違ったが、伏し目がちな私の瞳はディスプレイに向かっていたので誰、とまでは判らなかった。
が、耳に届いたのはドサリ、と何かが落ちた様な音。
私は何の気無しに振り向き、直ぐに音の方へと掛けた。




「っ、外山先生…!」




壁に縋る様に、白衣の貴方が倒れ込む。
慌てて側に近寄れば、虚ろな瞳の貴方は私を見て空笑い。
まるで、諦めた様に笑い、私が肩を貸そうと伸ばした腕を掴む。




「誰か、誰か呼ん


「##name1##…」


…ぇ…------」


「##name1##、##name1##…」





……
………------










「極度の、過労と疲労…ですか」


「一時寝れば、目覚めるでしょう。外山先生、最近休日も返上して働き詰めの様でしたし」


「そうだったんですか…」


「では、失礼します」




内科医が駆け付けてくれて、今は仮眠室に横たわる貴方を、私は未だ戸惑いながら見詰めていた。
顔色は、とても良い状態とは言えない。
倒れた所為で落ちた携帯を頭元に戻そうとした時だ。
不意に掌から落ちて仕舞い、開いたディスプレイが点灯して仕舞う。
椅子から離れ、手を伸ばして取った瞬間だ。




微笑んでいる…私------。













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