Key of Life-18(19/43)





「あの、外山先生」




カルテを覗いていた時だ。
四野宮が入って来たのだが、声音から何か言い難い事を俺に言わなければならない様だ。
医局に入り込み、ドアの前から一歩も動かない。
俺はカルテから手を離し、デスクの上の珈琲を手にして、四野宮にも要るか、と声を掛けた。
だが首を振り、もう一度俺を呼ぶ。




「如何した?言い難そうじゃねーか。そんな言い難い話なのかよ」


「…あの、売店に…ですね、」




「大丈夫、知ってるよ」




「……え…ぁ…そうですよね。もう二週間、ですもんね」


「まぁなぁ。野村から聞いた時は吃驚したけどよ。俺さ、##name1##に拒否されたよ。記憶なくても、俺は拒否られんだよなー。


まぁ、自業自得だよ」






俺、笑顔も上手くなったよ。





「…すみ、ません…外山先生。姉に、言われたんです。


---近付かせないで。


…と。でも!でもっ…外山先生はそれで良いんですか!?ずっと側にいたんでしょ?今更手放すんですか、嫌いになれるんですか、諦め…られるんですか?」




言い掛けながら、四野宮の声は途切れ途切れで、肩を震わせて泣き出す。
慰める事もないけれど…ただ肩を叩いてやれば、この人も傷付く事を止めるのかな、だなんてだらだら考えて…もう、誰かに触れるのはよそうと思う。
こんな手だけれど、オマエ以外には触れたくないよ。


柔らかい笑顔で接客するオマエを、出勤した直後に見付けた瞬間、この口は名前の一文字を呼ぼうとして仕舞った。
指先が震えて、慌ててわざわざ迂回して医局に逃げ込む様に入り込んだ。
如何して、いたのだろう。
そんな事を小高に零して仕舞い、視線を伏せてバイトで入った様だ、と聞けば…俺の心境はぐちゃぐちゃだった。




「四野宮、涙拭いてから戻れよ」




顔を上げた四野宮に告げて、回診に行くと切り捨てて、白衣に手を突っ込む。


笑顔は、上手くなったつもりだ。






……
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