Key of Life16(17/43)





「四野宮さん、四野宮さんッ」


「はい、はい。如何(イカガ)なされました?##NAME1##お嬢様」












数日後、私は携帯を握り締めたまま、産まれた時から私に付き添ってくださっている四野宮さんを呼び付けた。
たった今、先程アルバイトの面接の結果が判ったのだ。
私は自室を飛び出して、出来る限り早く歩き、庭先へと駆けた。
呼び掛ける私を抱き留めては、優しく走らない様に咎め、私に微笑む。









「アルバイト、雇ってくださるらしいの。つき先程、連絡が来ましたのよ」


「アルバイト…。お嬢様、その様なお話、私めは何も存じ上げておりません!」


「言ってしまったらば、圭介にもお伝えしますでしょう?四野宮さん。圭介のお世話になるばかりでは駄目ですのよ、私。だって、もう22だわ。


もう少し…きちんと世間様と向き合わなければならないと思いますの。これ以上、甘えてはならないわ」


「ですが##name1##お嬢様…。もう少しゆっくりで宜しいのです!藤吉様も仰ってくださってるではないですか。昨日の今日、何も慌てずとも世間には慣れます。もう少し、私共に甘えられてください…」










不安と寂しさを潜めた瞳で、私の両手を包み込む。
私はその言葉を飲み込みそうになりながらも、首を左右に振る事で、流されそうになる感情を振り払った。








甘えてはならないわ…
今まで、十分に甘えたのだから-----








私はそっと四野宮さんの両手を引き剥がすと、今度は自分からその働き者の掌を包み込んだ。
自分の掌に対して、温かく、それでいて分厚い掌。
産まれた時から遊び相手であり、姉であり…今では母親の様な存在だ。









「えぇ、だから…勤めるに当たって、きっとくじけそうになると思いますの。やはり、未だ…外は怖いですし、いつ発作を起こすかも判らない。


けれども…。


やってみなければ、何も判らないわ。ちゃんと知りたいんですの。怖いと思う世界を、楽しいんだと感じたい。


四野宮さん、言ったわ。









---馬には乗ってみろ。
人には添ってみろ。
先のことは、先の人が知っているのだから…









私、ほんの少し頑張ってみようと思いますの。此処は、頑張るべき場所だと…思うから。ね?」











飛び切りの笑顔を浮かべれば、四野宮さんも折れたらしく…私を痛い程に抱き締めてくれた。
洗濯の途中だった彼女は、シャボンの香りがして、私は気分が一層涼しやかになる。










「##name1##お嬢様がそこまで仰るならば、折れるしかないですわね。でも!一つだけお約束くださいませ」


「お約束…。何ですの?」


「決して無理はなさらない事。精一杯やるのと、無理や無茶をするのとは次元が違います。くれぐれも、無理はなさらぬ様に!」


「ふふっ。解りましたわ。大丈夫。必ず守るわ」


「ところで、どちらでアルバイトの方を?」


「あぁ、北洋病院ですわ。そちらの売店の方で。週に3日。この間ね、如何しても会いたい方がいましたの。けれど結局はお声を掛けれなくて…。そうしましたら、丁度、募集されてましたのよ」




「北洋…病院、でございますか?」




「……?えぇ」










急に四野宮さんは曇った表情を浮かべ、視線を落とす。
私が不思議そうに名前を呼べば、直ぐに顔色を変えたが…何処か可笑しい。
こちらが如何しましたの?と尋ねても、上手くかわされてしまった…。











……
………-----


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