わんもあちゃんす
雨上がりから数時間。
夜8時頃だった。
古くからの友人達とストバスを楽しんでいた。
オレをただの"友人"だと評する奴等との空間は、居心地が好い。
開放感が増し、無邪気にボールを繋いで行く。
ゴールを決めればがっしりと友人同士の腕を組み、パン…っ!と気持ち良い乾いた音をさせた。
キミに逢ったのは、そんな日だった。
春には未だほんの少し早くて、昼間は温(ヌル)い風が駆け抜けるが、夜になれば長袖、上着が必須。
その時は…まるで英国のガーリーな制服の様な服装。
黒いストッキング、茶系のバーバリーチェックの巻きスカート。
プリーツには皺一つ見当たらなかった。
タートルネックは黒く、細い細かな細工が光るトップが印象を受けるネックレスを2つ付けていた。
上着はアイボリーの、ロングトレンチコート。
リボンがあしらわれているパンプスはヒールが高い。
ふんわり巻かれた黒髪は艶やかで、触れたくなった。
口唇は、桃色のシャイニーグロスが柔らかな雰囲気を醸し出していた。
オレの瞳は、そこまで瞬時に記憶する程に、キミを観ていた。
恋、なるものに形を変えるのは必然的で、内緒と秘密で構成されたパウダーシュガーの様に甘美であるも、カカオ90%のチョコレートの苦みが押し寄せる二重奏(デュエット)。
最初の頃、連絡は自分から思いつく限り。
キミからも必ず返って来ていた。
今日はね、。
心配なさらないで、。
大丈夫、。
好きよ、黄瀬君-----。
それがもう…遠くに想うのは、何故だろう。
燻っていた欲望は、キミを酷く濁したんだ。
肌に噛み付いて、たらり…線を描いた色は紅かった。
オレを責める様に流したものは透明であり、塩気がしていたね。
拭っても、拭っても…オレの指先を触れる瞬間に、肩を小さく震わせて怯えていたんだろう。
ねぇ、何で俺以外のオレが携帯に入ってんスか、。
オレ以外じゃ駄目なxxxっスもんね、。
泣くよりさぁ、喘いでみせてよ、。
さぁ、好きなら出来るだろう-----
ヘドが出るね。
ちゃちな独占欲振り回して、それを知っていながらキミは静かに受け入れた。
支配力を暴力に託して、嫉妬を剥き出してしていた俺を…。
そろそろ限界、合わせるのも。
いつから瞳(メ)を合わせないのか、なんて愚問。
キミは決して逸らさなかった。
逸らして、踏みにじったのは…いつだってオレの方。
「もう………無理なんスかね?xxx」
震える手で、数ケ月振りにキミにコールするよ。
まるで救いでも求めるかの様に。
せめて、。
どうか、。
嗚呼、泣きたいよ。
「何で、泣くんだよ…。そんなに、オレの事…憎いっスか?」
不意に真横に視線を流せば、頬には涙が筋を作っている。
オレは諦めた様に微笑んで、憎いか---と…静かに問い質した。
携帯の、電波の先。
キミはくぐもった声で、小さくオレを呼ぶ。
鳴咽混じりに、途切れては繋いで…幾度も。
オレは聞き漏らさぬ様、ひたすら神経尖らせた。
必死だった。
無我夢中にただ、キミの声を渇望した。
「xxx…?」
『…好き、よ……。大好き……でも、私、もう…っ』
「解ってる…。だから、その思いを壊してくんないスか。
もう一度…最初からやろう。
大丈夫、オレが……」
不意に鳴る、インターホン。
ドアに吸い寄せられる様に、確認もなしに開けば良い。
いつだって、最終的に強いのは…キミだね。
xxx-----。
「…っ…ひっ……く馬鹿な人……。これだけ…傷み背負わせるクセに。ね、もう…大丈夫。
酷くなさるしかないと…言うのが黄瀬君ならば、ちゃんと……耐えるわ?
それ以外に方法がないというならば、私…っ。
私、強いのよ。貴方が、想うよりずっと…
以前から…ずうっと」
力なく微笑むキミの瞳は、嫌という程に腫れている。
擦る目元は真っ赤。
携帯が手元から剥がれ落ちて、まるで今までの壁を壊す様な音を立てる。
オレを抱き締めるには、余りにも細い身体で、俺の名前を呼ぶ口唇は震えている。
力強く抱き締め返せば、心地好いアンサー。
しがみ着く様に肩に顔を埋めるオレは、ズルリ…と下に崩れてしまうんだ。
ゆっくりとキミが沈み込み、頬には冷たい指先が触れた。
謝るオレの口唇に、真っ赤な瞳で柔らかにオレを窘(タシナ)めては、指先を押し付ける。
もう、黙って------?
と。
二人が瞼を閉ざす瞬間は、キス一つ。
全てを包み、やり直すではなく…始まりの幕開け。
---愛してる…xxx
---有難う、黄瀬君
fin…xxx
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