夜明け前は真っ暗だ/狩人 | ナノ


7…Uside.…


妙な冷や汗で目が覚めて仕舞った。
あれから一月が経ち、必死になって取り敢えず語学だけはマスターした…。
昔から語学だけは大好きで、古典漢文更に現代文から総合国語だけは得意だった。
それが功を成して職業は塾の講師。





「光…く、ん…」




信じる信じないは別として、私の彼氏は芸能人だった。
俄かに私自身も信じ難いが、確かにそうなのだ。
出逢いは居酒屋だった。
軽食も豊富な居酒屋で、私は講師仲間達と飲んでいたのだが、注文していた品物が届かないとなり、上司の飲み物がなくなるのは痛かった。
同期と目配せし、私が取りに行ったのだが、通路が如何せん狭く、大人二人ならば譲り合わなければ通れない通路だった。
私はカルアミルクとソルティードックを持ち、慎重に進んでいた筈だった。
だが、慎重になり過ぎて臨機応変が出来ずにいたのだろう。


見事にカルアミルクを浴びて仕舞った。


浴びた直後、頭一つ分から謝罪の言葉が降って来た。
見上げた瞬間、瞬きを忘れたのを覚えている。




---すみません、大丈夫ですか?!


---いや、俺がぶつかって仕舞って…てか服!!


---ぁ…あー…大丈夫ですよ。


---えと…如何仕様…取り敢えずクリーニング代や!後は…せや、メアド。


---大丈夫ですよ、そんな…。


---ちょお、手ぇ貸して貰えます?


---あ、ハイ。




私はす、とグラスを握ったままの手を差し出した。
すると彼は一言入れると、私の胸ポケットの油性ペンを握り私の腕を握った。
長袖のブラウスから覗く包帯に一瞬顔を変えたが、その覗く包帯にペンを滑らせた。




---クリーニング代、後で請求して下さい。


---いえ!そんな、


---俺、#bk_name_4#光と申します。
後でちゃんと出させて下さい。


---ぇと………はい。




実際、困って仕舞った私だが、頷き見上げた顔は少しはにかみ、それでも私の返事で笑ってくれた彼の顔だった。



はにかんだ笑顔が素敵だった。




この一月、奇想天外な事柄の所為もややあって、私は完璧に忘れていた。
私の悪い癖は一つは名前と顔を覚える事、もう一つは没頭すると大切な順序を忘れて仕舞う事だ。


今のはもう一つ目に値する…。




「光君…ごめんなさい…私…」



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