夜明け前は真っ暗だ/狩人 | ナノ


ごー…Uside.…


「美味しい…」


「だろう?インスタントだが、これは中々だったんだ」


「あの……」


「何?」


「…それが、素顔…ですか?」


「そうだけれど、可笑しいかい?」


「……素敵……」


「ん?」


「っ、あ…何でもありません…」




ワインが飲めないと知ると、インスタントだが珈琲を煎れてくれた為、私はそれに舌鼓を打つ事にした。
盗み見る様にして珈琲を一口、パッと見ては一口。


この人は美形だ…


格好良いんじゃない、美形なのだ。
珈琲の美味しさも手伝っていたとしても、普段からアイドルグループを見詰めていたのだがら、世の中の美形や格好良い男子の普段の基準は自覚している筈だ。
だから、彼は美形の部類に十分…君臨する。


素敵、よね…


すらりとした長い手足、オレンジではない…ブラウンでもない、独特のストレートの線が細い髪だとか。




「そんなに見詰められるとゾクゾクしちゃうじゃないか、xxx」


「ぁ…っ、すみません。…と言うか、名前…」


「ちゃんと覚えたさ。僕は一度でね」


「……すみません…」


「口癖が一つ判ったよ。君のね」


「出逢って一日経ってませんのに…」


「判り易いよ。『すみません』、だろ。さっきで通産何度口にしたから教えてやろうか」


「………」


「迷惑でも何でもないよ?僕が勝手に君を血だらけにしちゃったんだし、当然の事をしてるまでだろう。礼もいらないけど。


そんないたたまれない表情(カオ)されるより、もっと違う表情が見たいなぁ」


「…迷惑でないならば、お話を少し、宜しいでしょうか?」




不意に指先を伸ばされて頬に触れられた為、ビクリと肩が上がる。
しかし、それだけで、髪を耳に掛けられただけだった。
くつくつと咽喉奥で笑われて、何が楽しいのか理解が追い付けないが、私は思い切って口にした。


私は、きっとこの世界には戸籍がない事…。
寧ろ、この世界の住人ではない事。
何も出来ない、ただのライヴ帰りの女だった事。
状況に着いて行っておらず、迷惑しか掛けていない事。


つまり、もう取り敢えず手当たり次第全て。


すると今までせき止められていた涙腺から溢れ出してくれた涙が、今度は邪魔をする始末。
私は思い切り膝を抱え、頭を膝にくっ付けた。


また、迷惑…。



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