夜明け前は真っ暗だ/狩人 | ナノ


8…Uside.…


携帯だけは動いていた。


一か八か、思い出した様に充電器を差し込めばプラグはぴったりで、異世界からの持込物だというのに見事に電力は働いてくれた。
圏外は相変わらずだが、握った携帯は生きていて、私は今朝直ぐに電源を入れた。
そして中に入っている音声、留守電。


声なんて聴くんじゃなかった…。




---あ、xxx?俺やけど。
ぁ、オレオレ詐欺ちゃうねんで。
あれ、もう古いやろ。
この間送ってくれたやん?
あれ、めっちゃ美味かったで。

俺も今度何か送るわ。
何がええ?まぁ、また電話…する。
そん時にでも教えてくれるんやったら有り難いわ。
じゃあ。


---xxx?
今日、そっちも晴れてるんやないかなぁと思って電話してみました。
でも、未だ仕事やな。
この時間は。
…今日、満月やで。
帰りにでも空、見てみぃ。
じゃ…また。


---xxx、今日来てくれてたんやな。
絶対に来ん言うてたんに吃驚したわ、マジで。
知ってるか?
ステージから、こっち側からよー見えるねんで。
ちゃんと見えてた…。

最近、会えんでゴメン。
せやけど、来月…必ず会いに行く。
待っててな。


必ず行く…。





「如何仕様………光君に、約束破らせる事になる…。如何仕様…」




震え出した指先で携帯を握り閉め、秋風がそよぐ窓の側…私はへたり込み、膝を抱えた。
何が異世界だ、誰かの役に立つだ、ふざけるな、私。


ダン…っ------!!


フローリングに握り締めた拳を突き付けた。
ダン、ダン、ダン、と数回突き付け込み上げる嗚咽がある事に驚いた。
そう言えば、右手の薬指にはエンゲージリングが光っているではないか。
何故、忘れていたのだろう…。




「光君…」




何度名前を呼んでも同じだ。
音として名前を呼ぶが、気配一切感じれない。
当たり前だ。
この世界に光はいない。
涙で既にぐちゃぐちゃの顔を上げて、右腕を窓側の空に突き付けた。
秋空晴れた清々しい青に指先を揺らせば、太陽のささやかかながらな光が反射した様でキラリと光る。


その輝きが美しく、また小さく手を揺らしてみせた。
陰りなく光るものだから、私はそっと手を包んだ。




「光君…私、戻れるかしら……」





下唇を噛み締めて、涙を堪えた瞬間だった。
突然、瞼を覆う影が在った。



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