01


地下街にも様々な地区がある。

緊急連絡先が地下街なのは、きっとコイツ位だ。書類をファイリングし、鞄に詰め込むと、再度、俺は手にしていた手紙の宛名を見詰めた。

xxx・フィリス・モディリッシュ。

随分仰々しいファミリーネームだと思っていたら、それもその筈で、ハンジが形相を変えていた。上流貴族の中でも更に歴史深い貴族だと言っていたが、俺にとっては如何でも良い。貴族だと銘打つならば、何故、汚物蔓延(ハビコ)る地下街にいる。

だが、所在地に着く頃、納得した。貴族相手の箱庭。高級娼婦達、通称ドールが存在する通りだ。此処だけは、金さえ積めばどうとでもなる売春宿とは違う。身分がきちんと証明されていて、尚且つ金も相当額持ち合わせなければドアを潜る事は許されない。

受付をしている細身ながら相当出来る技量を持ち合わせた受付は、俺をギロリと一度睨むが、ハッとして息を呑む。俺だって地下街出身だ。名も通り、今では調査兵団の兵士長。深々と頭を下げられ、俺は面倒な義務的挨拶を一蹴し、用件を告げた。

サインだけお前の帳簿に求められ、ペンを取った。すると気付いた事は最初の数ページこそ違う名前が数人連なっていたが、殆どを彼奴の名前と定規を用いてしっかり引かれた一本線が次々とページを埋めている。他の客の名前が一切無いところからすると、彼奴の給料の流れた先が窺えた。

飲みに誘われても断っていたのは…

どちらかと言えば他の兵士達から常に慕われ、誘いも引っ切り無しだった彼奴だが、不思議と誰とも飲みにも行く様子もなく、私服も代わり映えしない物ばかりで、休日にも兵舎に留まっていた。出掛けるのは2ケ月に一度辺り。

俺も余り出掛ける人間ではなかったが…

羽ペンで名前を書き終わると同時だった。顔を上げればふわり、何かが仄かに香る。
「あらら、旦那様がいらしてたのですね。受付の最中に申し訳御座いません。失礼ですが、ほんの少しお話をマスターに宜しいですか?」

「…ああ」

顔は…同じだ。見間違える筈がない。が、目の前にいる女は腰まで流れるプラチナブロンドで、写真で見ていた艶やかな黒髪に青と桃のコントラストが美しい髪ではない。それにウェーブが掛かっているではないか。

コイツはxxx、なのか…

マスターと呼ぶ受付と話す横顔をジッと見詰めれば、厚化粧なのは仕方ないが随分と際どいドレスに身を包んでいるものだ。爪の先まで煌びやかに、耳にも装飾品、手の甲も何かを塗ってあるのかキラキラと角度が変わる度に光っている。大きく開いた胸元は谷間がくっきりと見え、足元まで流れる上質なドレスの裾の先にはピンヒールの13センチはあろうかという靴を履く。

「---ので、出入り禁止になさってくださいな。ナターシャさんの背中、煙草を押し付けた跡が幾つもありますし、前髪で隠されているけれども目蓋を切られているわ。殴られたらしいんですの。赤黒く実際は腫れていますのよ。きっとナターシャさんだけでは済まないわ」

「やはり、か。分かった。直ちにそれなりの処遇を。気に掛かっていたのだ」

「火傷の後遺症が心配ですわ。直ぐに良いお医者様にお診せしてくださります?私が一応の手当てはしましたけれど…。殴られた所為で熱を帯びて仕舞って、あれでも高熱ですの。私が後は引き受けますので、ナターシャさんは今日…そうですわね、せめてお顔が治るまでは休養を取らせてください。

ナターシャさんが指名された際には私に通してください。お相手は私が。

あ、けれど頂いた御代は全てナターシャさんにお願い致します」

「解った。ナターシャにもう上がるように言ってやってくれ。そしてxxx、今夜は一人如何しても君を指名したい旦那様がお見えにいらしている。ナターシャに用件を告げたらば、自分の部屋で待ってるんだ。解ったね?」

「………私に、ですか」

「ああ。とても大事な旦那様だ。さぁ、急ぎなさい」

「分かりましたわ。

ぁ…旦那様、マスターとお話させて頂き有難う御座います。どうぞ、素敵な夜にしてくださいませ。失礼致します」


ふわり、ドレスを摘まみ上げ、優雅に腰を落として挨拶をして行く。背中を向けた女は腰が細く、良くあのヒールで滑らかに歩けるものだ、と感心して仕舞った。

転(コ)けもしねぇし、案外速ぇな


「彼女がxxx・フィリス・モディリッシュでございます。こちらがドアの鍵、そしてこちらは手枷の鍵、一番細いこの鍵は足枷の鍵でございます」

「戻る時には全てに鍵を掛けてくれば良いんだよな」

「はい。逃亡されては困りますので。そして1つだけご忠告を。もし、逃亡に手を貸されましたならば…たとえ兵士様でもお命の保証は出来兼ねますので御了承を。

リヴァイ兵士長様、どうぞ、xxxと素敵な夜を。

彼女は、とても細い娼婦(ドール)でございますので…」


俺は受付を一瞥し、鞄を手にすると、未だ年端もない子供の男が俺に深々と頭を下げては上着と荷物を持ち上げる。もう一人はランプを持ち、暗く先が見えない通路に光をくべて、俺を先導して行く。数メートル歩き、螺旋階段を降ればまた通路だ。そこまでに幾つもドアがあり、微かに喘ぎ声や談笑する声が漏れていたが、二つ目の通路には三つ程しかドアがなく、更に降りた通路には最奥に一つだけだった。


「旦那様、こちからがxxxのお部屋となります。上着はこちらにお預り致しておきますが、宜しいでしょうか?」

「ああ、構わない。ただ、その鞄の中身は持ち込みてぇんだが」

「構いません。それでは、何かありましたならば、お呼びくださいませ」


ドアを開け、俺に鍵を預けた少年達は深々と頭を下げ、隣の小さなドアの中へと消えた。俺は中に入り込み、少しばかり驚いた。至って普通の玄関ではないか。



「今宵はご指名預かりまして感謝致します。お相手をさせて頂きます。名前をxxx・フィリス・モディリッシュと申します」



Fin…xxx
2013/10/16:UP

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