ヤバイくらい、好きだ。
お前が、好きだ。


咽喉奥で、常に燻る重心は、いつからか俺を貪っていた。部下からの下らない、心底詰まらない惚気話に飽きもせずに、耳を傾ける俺はどれだけ暇人なのかと思えた。実際は暇などありはしない。目の前で話すコイツも、暇ではない。

一度だけ、写真という物で、お前を見た。コイツはお前の婚約者だったらしく、仲睦まじさは周囲が認める程だったんだろう。コイツも、お前も貴族だ。否、゙だっだ。
話によれば、お前は長女でコイツも長男で、産まれた直後に全てを決められた。卑屈になることなく、従順に婚約を受け止め、歳を重ねる毎に噛み砕き受け入れ、互いを侵食して行ったようだ。愛し合うのは極々自然に、周囲が自ずと結ばれる事を祝う程。
だが、互いの家系は貴族といえども、陥れられた為に多額の借金を抱え、破綻寸前。すると、お前は躊躇う事なく、コイツとお前自身、そして二人の友人の借金全てを請け負い、身を売った。


---xxxはその身体を捧げたんです。
だったら、僕は命を捧げます。
彼女が゙女゙を売るならば、僕ば男゙を売る。


それが僕と彼女の゙普通゙なんですよ、と。
極々自然に笑っているコイツは、お前の前ではきちんと男をしていて、お前も、ちゃんと女だったのだろう。写真の二人は周囲を巻き込んで、柔和な雰囲気で似合っている。
誰が、見てもだ。



---え?名前は教えませんよ。
兵長、絶対に気に入って仕舞う筈ですから。
兵長がライバルだとか、僕、敵わなくなるじゃないですか。
あ、でもこの写真は差し上げます。
綺麗でしょう。



余りに惚気話をされるので、じゃあ名前位言えよとガン飛ばせば、生意気にも上司に拒否を示して来た。その癖、写真は簡単に手離すとか、何なんだ。馬鹿なのか。
俺はその写真を有無言わさずに差し出され、無理矢理、握らされた。捨ててやろうか、と一時はゴミ箱へと放とうとしたのだが、何故だか出来なかった。
嫌でも脳裏に刷り込まれたお前の情報は、写真を手に入れた事により、更に膨らみ、もう既に時、既に遅し。俺は実物を見た事もないというのに、お前に想いを寄せていた。

どんな声してんだよ。
どうやって俺を呼ぶ。

写真に向かい、名前を呼びたくとも出来ぬ事実に苛々した。口寂しくて、写真にキスして仕舞う重症だ。
気持ち悪ぃ。
自分が気持ち悪かった。だが、名前を呼びたくとも出来ぬという歯痒さが此処まで自分を蝕むとは知らず、如何する事も出来なかった。

日々を熟す生活に、俺はいつからかお前の存在を片隅に置いていた。夢を見れば、お前が振り向いて、俺を呼ぶ。知らない音色で。名前も声も知らなかったのだけれど、確かに俺の中に居座っている。

話された惚気話で出来上がった虚像のお前を、受け継いで仕舞った俺は、初めて、実物と逢おうと思う。



---…………って、いうん……で…す。

伝えてくれませんか、兵長。
゙愛していたよ゙と。
いたよ、と。



今から、出逢おう。
血液に塗れ、時間が経過して酸化が進み、禍々しい錆びた色を灯した手紙を片手に。
コイツの手紙を片手に。


受け取った、放棄された愛を掬い、お
前にコイツの想いを突き付けよう。
片半分、喰われて仕舞っても、手紙を託して来るコイツは、ヒューヒューと咽喉に風を通すようで、声はなかった。
それでも、ハッキリ言って来た。

xxx。
それが、お前の名前なんだってな。
初めて呼んでみれば、こんなに痛みを伴うとは思わず、驚いた。
xxx。
コイツは、すげぇ良い男だったよ。
俺が保障してやる。有り難く思えよ。

だから、壊れてもそのままで。
きちんとキズ付いてくれ。
せめて、痛みを感じて泣いてくれ。

ヤバイくらい、好きだ。
xxxが、好きだ。
吐き出した想いは、醜くて、何て酷い有り様だ。


Fin…xxx
2013/10/16:UP

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