04-01
中身が腐敗しても、ジャケットやマントは大概残っていたりするものだ。

あれから、何度も目を凝らしても彼奴が亡くなった場所には何一つ痕跡は見当たらなかった。他の部下達や同僚の中身が地に染み込んで白骨化したとしても、使用していた立体機動装置等は回収出来る物だ。だが、彼奴、ヨシツヤの物は何一つ見当たらなかった。


同僚を大事にするような奴ではなかった。

逆に危ない場面では班の同僚さえも囮に使い、いつもつるんでいた2人と生き残る事を選ぶ奴だった。いや、危ない場面等は彼奴等には実際は無かったに等しいのではなかったろうか。

彼奴等の能力は脅威的だった。連携させれば然程力を使う事なく、淡々と巨人どもを蹴散らして行った。鮮やか以外の言葉が見当たらない。

だが、いつもは同じ班だというのに、その時はバラけて仕舞った。彼奴は俺の班になり、後の二人はハンジの班になっていたのだ。研究員として尋常ではない知識を持ち詰める事を得意とする一人と、一瞬でも見た物は記憶するという特質と類い稀なる計算能力とを金揃えた一人は、ハンジのお気に入りだった。彼奴は総てに於いて秀でていたが、殊更巨人討伐には高い能力を持ち、俺をも凌ぐ力量だった事は確かだ。

それでも、死ぬ時はある。

他の部下が目の前で殺され掛けた瞬間、咄嗟に彼奴は援助に向かって仕舞っていた。いつものように見捨てる事をせずに、助けるという選択を選んだ。だが、タイミングが僅かにずれたのだろう。

気付いた時にはワイヤーが巨人の指先に絡んで、大口の中だ。



「うっわ!更に悪どい顔になってるよ?リヴァイ」

「ハンジか。何だ」

「この一ヶ月、珍しく寄宿舎に大人しくいるみたいだからさ。もう飽きたの?」


他の隊員達が調べ挙げて来た遺留品等のチェックをしている側で、ハンジが珈琲を入れたマグカップを差し出して来た。一度休憩を挟もうと、俺はドカッと簡素なソファーに腰掛けて、マグカップを受け取る。向かい合う形で腰掛けるハンジはニヤニヤと気持ちの悪い笑顔を張り付ける。


「何の事だ」

「しらばっくれても一部の間では専ら噂だよ。潔癖なリヴァイが高級娼婦に入れ込んでるってね。良く他人が使う穴に突っ込めるものだ、とかねー。まぁ、私が察するに?リヴァイは罪滅ぼしの為に通って金を落としてやってるだけだと踏むけれど。

如何かな?」

「はぁ…いつから調査兵団は暇になった?俺は行ってもヤってねぇよ」

「え、通ってるのは否定しないのかい?認めちゃうんだ。でも、じゃあ何で通うのさ。彼女達はそういう事情(コト)の為の人形だし、存在だろ?それをシないってのは、存在価値が劣化するじゃないか。それとも何かな、やっぱり罪滅ぼし?同情?」

「罪滅ぼしでも同情でもない。罪滅ぼしなんて、出来る訳ねぇだろ。同情なんて、そこでxxxに寄ってねぇしな。強いて言うなれば、暇潰しのギャンブルみたいな物だ」

「ほう。ギャンブルねぇ。確かに、好きになって貰える確率は低いし?てかさ、さっき暇潰しとか言ったのは矛盾が生じないかい?リヴァイ」

「俺は良いんだよ」

「お名前はxxxちゃんって言うのか。あ、少し調べたんだけれど、やっぱり上流階級の貴族の娘(コ)だったよ。フィリス・モディリッシュ家出身だった。だが、名前は除名されてたんだよな…何でか、さ。

そしてフラム・ヴィバレッジも同じく上流階級の貴族出身だったんだよ。でも、フラムは戸籍がそのままだった。けれど、身元引き渡しの親族にはxxx・フィリス・モディリッシュただ一人だけだった。親族がxxxだけであり、他は血縁者が居ない事になっていたんだ。除名されてないのにね。


貴族ってさ、何か複雑な因縁が絡み合ってて、xxxちゃんとフラムも、何か複雑な因縁に囚われてたのかもね。フラムは組織としては腕は立つし、役立つ人間だったけれど、妙に徹底した冷徹さが垣間見えて、大概…仲間は言葉は悪いけれど、見殺しだった。それはフラムだけじゃなく、私の直属の部下になった二人にも言えた事だったけれどね」


マグカップの中身を飲み干す頃、ハンジは秘密裏に、憲兵団の蜘蛛の巣を掻い潜り、戸籍を洗って来たらしく、書類の速記録を大変だった、と愚痴りながら俺に差し出す。受け取った速記録には先程ハンジが独自論を交えて知らせたような内容が記される。正直、何を聞いても余り驚く内容でも無い。

彼奴は上手く染まる振りをしては、自己の軸を曲げる事無く、信念を貫いただけだ。お前をただ、護る為に。

それだけの価値がお前に、xxxにあっただけだ。


「取り敢えず、礼は言う」

「報われると良いね?リヴァイ」

「勝手に言ってろ」


チェックに戻り、カレンダーに不意に視線を向ければ通わなくなって一ヶ月が経過しそうだった。俺は明日辺りに店に行こう、と静かに思った。



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