03-02

午前1時過ぎていた。

午後8時辺りからハンジの興味心に、半ば強引に引っ張られる形で会員制のバーにいた。ハンジねか向けた興味はフラムにだった。ストイックに兵士として働く奴が、出掛けるらしい!と、尾行すると言うのだ。俺は面倒であり、関心を持つ事もなく、断り続けていたが、何度も尾行する内に、すっかり強制的ではなかったのかも知れない。6回程、彼奴を見る内に、彼奴が見せた写真の女が目の前にいるのだ。

足にも手首にも細くはあるが、拘束具を付けられたままで。

店内には、数人の似た様な拘束具を付けた女の姿があり、暗黙のルールの中で、一時の逢瀬を楽しむ恋人達がいるようだった。お前も、その一人だ。遠目からでも判るように仲睦まじく微笑み合っては、酌をしていたな。

お前な飲めないのか、酒は一切口にしていなかった。だが、煙草は吸うタイプらしく、飲む彼奴の横で、会話の途中途中で口にくわえていた。

そして、あの日…意図は無くとも、初めて視線を合わせたのだ。枷がある手で、俺に差し出したそれは、きっと只のお前の善意だ。


---マジかよ。
売り切れとか…チッ、じゃあ何にするか。


癖になっている舌打ちの理由は、普段吸っている煙草が売り切れて仕舞っていたからだ。ただ、それだけだ。親父はすみません、と頭を下げるが、俺は溜め息混じりに舌打ちをして一瞬悩んでいた。別に兵舎に戻ればストックもあるし、飲むに徹すれば吸わずとも構わない。諦めるが早いと踵を返せば、遠慮がちな高くも柔らかい声音に振り向いて仕舞った。


---宜しければ、一箱どうぞ。
お話を聞くつもりでは無かったのですが、聞こえて仕舞いまして。
お節介になるやも知れませんが…。
私、未だもう一箱あるんです。


どうぞ、差し出された銘柄は俺が吸っている煙草と同じだ。薄明かりの街灯の下で、顔は互いが互い、余り見えてはいなかっただろう。それでも、柔らかな声音から、酷く優しい顔しているんじゃないかと推測出来た。若干迷ったが、有り難く受け取り、代金を渡そうとしたにも関わらず、頑なに受け取らず、お前は俺に差し出した代金を押し戻した。


---雨ですね。


頷いた瞬間、直ぐに豪雨に見舞われ、数メートル先の屋根がしっかりしている場所まで二人して走る。肩に掛けていた大判のストールを被るように頭に乗せていたが、数メートルしか雨に打たれなかった筈だが、肩はぐっしょりだ。

前髪に付いた水滴を指先で払い、困ったように、仕方が無いと諦めるように呟くお前は、濡れたストールを頭から外し、そのまま肩に掛け直す。目の前が見えぬ程に白む。雨音は、酷く耳を打っていたか。


---酷いな、雨。

---そうですわね。

---無いよりは、マシか?

---そんな、大丈夫です。

---女を濡らしておく趣味はねぇよ。
顔位なら拭けるだろ。

---…では、お言葉に甘えて。


差し出したハンカチを素直に受け取れば、雨に濡れた頬に宛がった時だ。カシャッと音がしたかと思えば、お前が溜め息を溢した。視線だけ流せば、枷が邪魔をして上手く拭けずにいるようだ。

何も口にせず、俺はお前の手からハンカチを取り、髪を拭く。ストールを掛けていた部分は濡れておらず、不意に指に当たったのだが、驚く程に滑らかだった。仄かに甘い香りが鼻に届く。

不思議な感覚だった。


---あ…小雨になりましたわね。

---そうだな。

---私、人を待たせて仕舞っているんです。
今の内に、戻ります。


有難うございました、と深々と頭を下げ、ヒールの音を響かせて立ち去ろうとする。が3メートル程離れた時だ。くるり、と振り返る。



また、会えると良いですね。




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