04-Last

俺はそっと、傍らに腰を下ろしてみた。膝を抱えるお前の真横で、ようやっと聞こえる声は静かな声で、小さく響く。顔を上げて、ナイフを徐に見詰めて、ハッキリ言ってる。

私のものだったのに。
私が殺す筈だったのに。


「私がいれば何も要らなかったのではなかった?私さえいれば良いから、他人が目の前で這いつくばって助けを請いたとしても踏みつけて、見棄てるよって言ってくださってたのに。笑ってたのに?

私だけ守るって、笑ってらしたのに?」


勝手に死んで行かれるんですもの。


付着した血液をドレスの裾で拭き取りながら、その声は潤んでいる。泣けずに、口唇を噛み切っては口端からも血を流す。俺は方膝を胸に引き寄せ、そうかも知れんな、と呟いていた。

引き寄せた片足に右腕をだらしなく乗せ、ぐっと握り拳を握り、ゆるりと開く。握り、開き、と繰り返す。シャツの間から見える内側の手首の血管がうっすら見えた。


「………その、傷……」


震えた、それでいて色がない声音が降って来た。いつの間にかぼんやりと立ち上がったお前は、俺の腕に釘付けになっているではないか。ナイフを持ったまま、血液が絵画でも描かれたかのようなドレス姿で。

足の爪先は血液とは不釣り合いなミルク色した水色に何やら花が描かれていて、足首にはカラフルな飴玉を溢したようにアクセサリーが光っている。その足先から徐々に視線を上げて行けば、眉間に微かに皺を寄せては悲痛そうに目を見開くお前の顔。

カシャ…ン------

力が抜けた指からナイフが落ち、ラグからはみ出して落ちたようでキンとした音が鳴る。お前は俺と視線は合わせず、ただただ傷に縛り付けられたように俺の腕を凝視するのだ。

何か言おうとしたのだが、お前は目を泳がせ、次には何かぶつぶつ呟きながら、躓きながら慌てた様子で離れたかと思えば、何やら箱を手に取って、俺の傍に腰を下ろす。


「如何して何も手当なさってないのですか…っ」

「…放っといてもこれ位、直ぐに治るだろ」

「未だ傷口が塞がってないじゃないですか!」

「仕事の内だ。それに、こんな傷位で痛みなんてねぇよ」

「痛みが無いだなんて虚勢張らないでっ。傷に雑菌が入ったら如何されるつもりですか?破傷風にでもなったら…っ」

「俺のが虚勢なら、xxxのは如何なんだよ。痛かった。だが、一瞬だけだ。でも、xxxのはずっとだろ。

切れないナイフでやってても埒あかねぇし、錆びたナイフでも切れねぇんだろ」


「…………痛みなんて、無いわ……」


「は、嘘だろ」


「ある訳ないじゃない。フラムのナイフですのよ。フラム
は…私をキズ付けたりしないもの」

「今度は妄想かよ」



俺の腕を手当しながら、至って冷静にだが、口論のように言い合う。支離滅裂な言葉が最終的には吐き出され、俺は若干呆れて嘲笑った。妄想、という言葉にお前はまたは瞳に色を失い、俺から後退る。

そして、また…腕を伸ばして手放したナイフを再度握り締める。


フラムは私をキズ付けたりしない。
フラムしか私を殺せないの。


「苛々する私を殺してくれるのよ?如何して切っては駄目なの?痛みなんて無い。ずっと無い。

生きてるじゃない。

フラムがいなくても生きてるじゃない、私。お仕事だって自分で選んでるのだから、ちゃんと生きてるじゃない」

「xxx……」


「生きてるじゃない! これ以上、如何しろって?フラムがいなくても生きてるわ!ちゃんと………上手く生きようって…フラムがいなくても、要らない自分を消して頑張ってるのよっ。………生きて…る、じゃない…。


生きてる以上に、これ以上何をしろって言うのよ…っっ」



「xxx………っ」



Fin…
2013/10/16:UP


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