切られた火蓋
――徳川軍。

「忠勝!わしらは、何としても此処で武田と上杉を足止めせねばならん!」
「……!」

武田だけだと思った。
だから布陣し、織田の鉄砲隊が来るまで触発状態で留められると考えたのだ。

しかし、今朝になって上杉軍が武田軍に並び布陣した。
両軍と徳川軍では、兵力に差がありすぎる。
万を期したと、今にも攻めてきそうだ。


「織田の鉄砲隊が来るまで、持ちこたえればよいのだ。忠勝!戦国最強の力、今こそ見せてくれ!」
「……!」

徳川家康が、軍配をあげた。


「総軍をもってして、武田・上杉を打ち破る!出陣じゃ!」
「「「「うぉぉおー!」」」」




――織田軍。


「伊達を先鋒に、武田・上杉が挙兵しました。既に、伊達には浅井を、武田・上杉には徳川を差し向けています」

明智光秀が覇王・織田信長に報告する。


「……」

「それから、徳川から鉄砲隊の救援要請が来ております。いかがしますか、送りますか?それとも……」


口角を吊り上げ、光秀は愉悦に震える。
信長はそれを一瞥し、低く、重く響く声で一声、言った。


「好きにせい」
「ではそのように……、私も戦場に行きます。間近で見たいので……ふふ」

ふらふらと危なげに歩きながら、明智光秀は覇王の御前を下がった。



第六天魔王・織田信長は、すべてを見通せる崖の上に兵をおき、頂点より戦況を見下す。

浅井や徳川も含める全ての軍が疲弊したとき、それらを根絶やしにする為に。



――上杉軍・武田軍。

「ひさしぶりですね、かいのとら。おかわりなく?」

「うむ。久しぶりじゃのう、謙信よ。お前も変わりはないか」
「かわりがあるとするなら、あなたとやいばをまじえていないことですね」

「確かに。織田を倒した後は、再び渡り合おうぞ!」
「ふたたびをこころまちにしています。ときに、かいのとら。瑜葵のすがたがみえないのですが……」


ん?と信玄が首を巡らす。瑜葵の姿――陣中にいた筈の――が、見当たらない。
佐助に目をやると、視線で示された。

先には、雑兵らと語り合い、励ましあい、笑う瑜葵がいた。
謙信もそれに気付き、声をかけるのを止めた。

「……ぐんぎをはじめましょう、かいのとら」
「うむ……「お館様!!」」

ばたばたばた、と見張り兵が駆けてくる。
言葉を聞くまでもない、瞬時に軍に緊張が走った。

「徳川軍が、進軍開始しました!!」
「うむ!全軍、徳川軍を迎え撃つ!徳川家康を討ち取れい!」
「みなのもの、しゅつじんです!いざ、びしゃもんてんのなのもとに!」


両軍大将の声に、地を揺るがす程の雄叫びが答える。

「瑜葵殿!」
「……はい。いってらっしゃいませ、甲斐の、そして、上杉の皆様。どうか、武運を!」


健気に両手を組み合わせ、瑜葵が全員に聞こえる様、声を張り上げる。
瑜葵の声に呼応し、皆が雄叫びをあげる。


「お館様、謙信様、幸村さん、佐助さん、かすがさん。どうか、ご無事で」

「うむ!」
「あなたも、ぶじでいてくださいね、瑜葵」
「直ぐに勝って参りますぞ!」
「後よろしくね、っと」
「お前こそ、流れ矢にあたらないよう気をつけろ」


それぞれに答え、策通りの任に向かう。

上杉軍は、謙信公・かすが率いる少数部隊が北面から切り込み、直江兼継率いる本隊が正面から向かう。

武田軍は、幸村・佐助率いる真田隊が南側から切り込み、お館様・山県率いる本隊が正面から向かう。

この布陣ならば、南北から切り込まれ体制を崩した敵軍を、正面の最も戦力のある部隊で叩く事ができる。

その為に、南北は腕の立つ武人が受け持つ事となった。


「鎌之助さん」
「長からくれぐれもと任されている。信用してくれ」
「はい。鎌之助さんも、生きて甲斐に帰りましょうね」

真田十勇士が一人、鎌之助が瑜葵と共に陣中に残るが、それ以外の勇士は幸村と共に出ている。

「……努力、しよう」
「はい。私も、頑張ります」


敵味方の雄叫びと怒号、悲鳴、そして金属のぶつかり合う音が、鈍く響いた。

――戦の火蓋が、切り下ろされた。
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