甘いデザートと
テーブル席の片側に悪友三人、もう片側に椿とランが座る形で机を囲む。当初の予定より遥かに人数が増えた席の真ん中。アントーニョは、今まで全く関わりの無かったソロプレイヤーを見た。フランシスが何を考えて、彼女を連れて来たのかはわからない。しかし、計画に支障を来さなければ、誰が居ようと同じだ。着こんで来たゴツい鎧を揺らし、アントーニョはぐっと拳を握りしめた。


フランシスの勧めに従って、椿はクロケットとピンチョス、デザートにクレマカタラ―ナを注文した。すると、ほどなくして、NPCプレイヤーによって料理が運ばれてくる。目の前に並ぶ見慣れぬ料理に、椿は目を瞬かせた。
ピンチョスというのはパンの上に魚やエビといった魚介類やピーマンなどを載せた料理だ。通常一口サイズにカットされており、串で刺して食べる。そのため、大皿一杯に載っている。クロケットは俵型のコロッケだった。一つ一つは一口大なのだが、皿に山盛りになっていてやたら量が多い。あまりに多い量を見て、椿は少し眉を下げた。食べきれる自身がない。

HAOでは、現実世界と同じように空腹や満腹を感じることができる。そのため、HPは増減しないのに食傷気味になったり飢渇感に苛まれたりもする。目の前のものを全て食べれば、確実に胃もたれになる。後に来るデザートを食べられなくなるだろう。しかし、食べ物を残すなどという礼儀知らずで非常識な真似はできない。
ピンチョスを凝視しながら、椿はどうしたものかと頭を悩ませた。その隙に、向かいから伸びた手がピンチョスを二、三本持っていく。驚いてその手を見れば、串を手にしたギルベルトがケセケセ笑っていた。

「ちょっとくれよ、な?」
「あ、はい。どうぞ」
「おっコレ美味ぇな!」

ピンチョスを気に入ったらしいギルベルトは、自分のパエリアそっちのけで次々と串を取っていく。結局、ランの殺人的な眼光を歯牙にもかけず、殆どを食べてしまった。

「あ、悪ぃ!食い過ぎちまったな」
「いえ、構いません。量が多かったので、助かりました」

椿はそう言って微笑み、クロケットの山を崩し始めた。プレーンなものから鮭味、人参味、枝豆味など味の種類が豊富で、食べていて飽きない。ギルベルトのお陰で、胃もたれも免れそうだしデザートも食べられそうだ。ほっと安堵して、椿はクロケットの山を平らげた。
デザートが来るまで一息つこうと、茶っぽい色の液体を口に含む。HAOを作った人はお茶派ではなかったのか、まともな茶が出たためしがない。色は緑茶に近いものの、味は遠くかけ離れている。ここの店の茶は、現実世界の茶と名のつくもの全てを混ぜて煮詰めたような味だった。

「椿ちゃんと随分仲良しなんだね、ギル?何かあったの?」
「あ?あー、今日一緒に昼寝した」
「?!ゴホゴホッ」

向かいから聞こえてきた会話に、椿は茶を噴き出しかけた。ランが気遣わしげに背を撫でてくれて、咽ながらもなんとか息を整える。

「ああああのギルベルトさん、その言い方は語弊がっ」
「あ?事実だろ?」
「事実ですが、その、もう少し言い回しが」

言っているうちに顔が熱くなり、椿は視線を彷徨わせた。HAOの感情表現は少し過剰なため、下手したら頭から煙が出ていそうだ。

「なるほどねぇ、ギルちゃんも隅に置けないね!」
「フランシスさん、自慢の顔に傷はいかがですか」
「からかってすみませんだからピンチョスの串投げないで」

真っ赤な顔でピンチョスの串を構えた椿に、フランシスは諸手を上げた。どう見てもおどけた降参の構えだったため、椿は遠慮なく串を投げた。串は攻撃とならないため、フランシス自慢の金髪にサクサク刺さる。一通り投げ終わると、それらを抜く彼をよそに、椿は丁度運ばれてきたクレマカタラ―ナに取り掛かった。
HAOのNPC店は、一部のレアメニューを除くとまともな味の料理はないに等しい。香辛料や調味料の類もテーブルに用意されていないため、味付けを変えることもできない。その問題を解決せんと、味覚パラメータの解析に乗り出した者が居る。自称・料理研究家のフランシス・ボヌフォワである。

彼はありとあらゆる食材をもって研究し、お手軽調味料を製造、販売している。その研究には椿も一枚かんでおり、レベル上げの過程で見つけた食材を提供している。ちなみに、デザートに関しては運営が本気を出したらしく、ハズレにあたったことがない。この店のメインデザート、クレマカタラ―ナも例外ではなく、とても美味しい。
カスタードのさっぱりした甘味と、カラメルのぴりっとくる苦味が絶妙のハーモニーを奏でるデザートに、椿は相好を崩した。
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