フレンド登録
未だ覚めやらぬ頭で、椿は目の前にいる青年を見つめた。銀色の髪に紅色の目をした精悍な面差しの青年で、どこか軍服めいた青緑色の制服を着ている。意志の強そうな鋭い双眸に高い鼻、不敵な笑みを浮かべる唇。鋭い輪郭は男らしく、力強さを感じる。
軍服は濃緑を基調に、立襟、肩、袖、ベルトに差し色として黒を使っている。膝下ブーツと正十字のネックレスも黒で揃え、派手ではないが格好いい。そこまで青年を観察して、不意に椿は寝る前の事を思い出した。
次の狩り場に行こうとした矢先に、呑気に寝ている青年を見つけて怒鳴りつけたこと。そして、青年に言われて、昼寝をしたこと。全てを思い出し、椿は一瞬で真っ青になった。

「す、すみませんでした」
「あ?」
「その、いきなり怒鳴りつけたりして……お昼寝の邪魔をして、しかも、コートまで借りてしまって……本当にすみません」

慌てて頭を下げると、青年は苦笑を声に滲ませながら、気にするなと答えた。

「ですが……」
「良いんだ。俺は気にしてねぇ。……お昼寝日和だっただろ?」

自慢げな笑みを浮かべる青年に、椿もまた微笑んで頷いた。この街には何度も来ているが、昼寝に最適な環境だとは知らなかった。

「はい。こんなに眠ったのは久しぶりです」
「だろーな……お前良く寝たな。もう夕暮れだぜ」
「夕暮れって……もうそんな時間ですか?」

慌てて視界の端に目を向ければ、時計は十八時五十分を示している。さっと顔色を変えた椿に、青年は可笑しそうに訊ねた。

「なんだ、人と待ち合わせでもしてのか?」
「はい。蘭さんのお店に行く予定なんです」
「蘭?もしかして、ラン・ハーグか?あそこぼったくられるだろ」

ラン・ハーグ。腕利きの商人で、スキルを超えたものを感じるほど目が聞く事で評判の男だ。無愛想で無口で金にはシビアだが、根は熱血で優しい。剣の腕も相当で、迷宮区のボス攻略にも度々参加している。

「少々シビアな方ですが、良い人ですので」
「まあ、それは否定しねぇけど。じゃあ、もう行くのか?」
「はい。今から行けばギリギリ間に合いますし」

待ち合わせは十九時、ゲートから敏捷度最大で走れば余裕で間に合う。コートを畳んで返し、椿は転移門へ向かいかけた。しかし、途中で足を止め、青年の方へ戻った。

「……どうした?」
「あ、あの」

訝しげに聞かれ、椿は躊躇いがちに口を開いた。断られるのではと思うと、うまく言葉に出来ない。しかし、これでお別れにしたくなくて、おずおずと頼んだ。

「フ、フレンド登録、してくれませんか」
「……は?」
「だ、駄目だったら駄目で良いんですけど、もし良かったらと思って、すみません」

青年が変な顔をしたのを見て、椿は慌てた。これっきりなのは少し寂しく思い、連絡をとれるようにしたかったのだ。しかし、やはり言わなければ良かった。今まで一度も言ったことがないし、言うこともないだろうと思っていたのに。
顔が熱くなり、椿は俯いた。HAOは感情表現が過剰なため、下手したら煙が出ていそうだ。

「なんだ、いやに真剣な顔するからビビったじゃねぇか。フレンド登録、してもいいぜ」

青年の声に、椿は恐る恐る顔を上げた。変人扱いされるかと思ったのだが、青年は気にしていない風でウィンドウを操作している。

「お前もウィンドウ開けよ」
「あ、はいっ」

慌ててウィンドウを開き、フレンドリストを開く。相手にアドレスを送信し、送られてきたアドレスが登録される。彼の名前は、ギルベルト・バイルシュミット。どこかで聞いたことがある気がするが、すぐにこれと思い出せない。既視感を感じつつも、椿はにこりと笑みを浮かべた。

「ギルベルトさん、ですね。よろしくお願いします」
「おう。椿か、いい名前だな。よろしく」

ウィンドウを消し、ギルベルトに一礼すると、椿は転移門へ急いだ。ランを待たせるのは申し訳ない。転移門に入り、椿はランのホームタウンの名前を唱えた。

「ゴーダ・フローリンゲン!」
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