くだらない夢


「なぁ、清川!…世良見なかったか?」

練習がそろそろ始まろうとしていたが、世良の姿がなかったので傍に居た清川にそう声をかけみだが、清川は「何を言ってるの?」と言いたげな顔で俺を見つめ返してきた。

「あっ…いや…だから…世良、見なかったか?」

「…さっきから、堺さん何を言ってるんすか?ってか、「世良」って誰ッスか?」

…最初は清川にからかわれてると思った。

「おい!冗談よせよ!!」と訴えてみたが、清川は冷たい目で俺を見つめてきた。

このやり取りを聞いて皆が俺達の周りに集まってきたので集まってきた奴らにもて問いただしてみたが「世良って誰だよ?」「堺さん、大丈夫ッスか?」といった答えしか返ってこなかった。

ふと、我に返るとみんなが俺を疑っているのが分かり、この状況はネタではないと認めざる負えなかった。

イライラしながらも、途方に暮れていると監督やコーチ陣が外へと出てきて、松原さん仕切りにより「変なことを言ってる俺」を抜きにとりあえずアップが始まった。

グラウンドの隅に俺は追いやられ、ポツリと置いてあるベンチに座りながら地団駄を踏んでいると不意に「どーした?堺ぃー?」と監督から声をかけられた。

声がした方へ顔を上げると監督は何もかも知っていると言いたげな不敵な笑みを浮かべながら俺を見下ろしていた。

「何か知ってるんですか?」と言おうとしたが、それを遮るように監督が急に俺の両肩に手を置き潰されてしまんじゃないかと思うほどの力で肩を掴んできた。

訳が分からず、痛みや恐怖に顔を歪ませながら監督を見つめるとニヒィーと影のある笑いをこちらに向けていた。

更に恐怖におののくと、監督は力強く俺を何度も揺さぶってきた。声を上げることも出来ず、なすがままになっていると不意に目が覚めた。夢だった。

上半身を起こし、呼吸を整えていると夢だったはずなのにズキズキと肩が痛み始めた気がした。

言葉に表すことのできないなんとも言えない不安や恐怖に急に襲われて、俺は気づくと携帯を手に取り世良へ電話をかけていた。

「プルプル…」と呼び出し音を聞いていると、ふと我に返り急いで切ろうとしたが、時すでに遅く世良が電話をとってしまった後だった。

「堺…さん?こんな時間にどうしたんですか…なんか…ありましたか?」

電話越しの世良はあからさまに寝起きの声だった。当たり前だ。やっと時計は朝の5時を回ったところだった。

しどろもどろしながらも、本当の事なんて言える訳ないので適当に嘘をつきつつ詫びながら半ば強引に電話を切った。

何もかも忘れたったのでもう一度眠りにつこうと布団に入ってはみたものの、きっかり目は冴えてしまっていて眠れそうにはなかったので、俺は仕方がないと腹をくくって布団から出た。

気分転換がしたくてあれこれと考えてはみたものの、結局「風呂」くらいしか思い付かなかったので急ぎ足で浴室へと向かった。

シャワーを浴びつつ、頭を洗ったりカラダを洗ったりししてみても、最後は気づくと夢のことばかり考えていて、思わず誰も居ないのに苦笑が漏れしまった。

シャワーから上がり、多少だけどさっぱりはしたので乾ききっていない髪を拭きながら今日の朝は何を食べようかと頭を切り替えて冷蔵庫の中を思い出していた。

…こういうときは次のこと、次のことをどんどん考えることに越したことはない。俺の選手としての教訓だ。

「…よし、あれにしよう!!」自分の中で決まり、声にだすと急に「ピンポーン」と家のチャイムが鳴り出した。

時計を見てみるともう少しで6時になろうとしている時だった。「こんな時間に誰だよ?」と思いながら玄関をあけるとそこには世良が居た。

俺が呆気にとられていると世良は「堺さんが…電話なんて珍しくって…なんか…あったんじゃないかと思って…」とゼーゼーと肩で呼吸をしながら何となく心配で無駄足覚悟でかけつけてくれたことを教えてくれた。

…世良って奴はつくづく凄い奴だと感じる。それと同時にたった数十秒しか話してなかったのに俺の異変を感じ取ってくれたことも嬉しくてたまらなかった。

とりあえず俺は世良を玄関に入れ扉を閉めると、たまらず世良を抱きしめてしまった。

世良は「堺さん…やっぱなんかあったんスか?」と聞いてきたので、少し恥ずかしかったので世良の目は見ないように伏し目がちになりながら「…悪かったな、世良。くだらない夢を見ちまってお前が心配になって電話かけた」と本当のことを素直に伝えた。

伝え終わると「あぁー良かったー」と世良の口から漏れ、安堵したようでいつものニコニコ顔で俺を見つめてきていた。

その顔が愛おしくて、キスをしようと世良の顔に自分の顔をを近づけようとしたとき「グルグルグゥー」と世良の腹が不意に鳴った。

その音に世良は真っ赤になりながら「安心したらお腹が空いちゃいました」とおどけながら笑っていた。

俺もつられて笑いながら「…よし、世良!飯の支度するぞー」と世良を解放しつつ俺はキッチンへと向かった。

その後ろを「わーい!堺さんのご飯だ!!」と世良が続けて入ってきた。

あんな夢は二度と見たくはないが、こんな朝はなんか良いなと俺はちょぴり幸せに包まれた。






** あとがき **

ちょっと…大分、真面目さん。
長いよー 長いねー
もしかして、うちのサイト史上一番長いかも!?!?
とりあえず、最後まで読んでくださってありがとうございます。

個人的に私も堺さんは料理が上手って設定が好きなのでこんなオチにしてみました。
ってか、うちのサイト夢オチ多すぎですよね…スミマセン。
レパートリー増やせるように頑張ります。

…堺さんって難しいなぁ。
2011.10.1

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Hz[ヘルツ]のケイコ様がこのお話を元にした漫画を制作して下さいました!!

スゴイ素敵な作品です!一見の価値ありです!!

2011.10.14
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