<META NAME=”ROBOTS” CONTENT=”NOARCHIVE,NOINDEX,NOFOLLOW”><META NAME=”GOOGLEBOT” CONTENT=”NOARCHIVE,NOINDEX,NOFOLLOW”>119 | ナノ








夕焼けの空の色が、部屋を染めていた。
自室でベッドに身を投げ出したまま、倒れ込んでいる。こんな時間に、こんな風にしているのは何分久しぶりのことで、何だか妙な充実感と虚無感を、一身に受けてそのままベッドに沈んで行きそうだった。
何もしないをする、というのには大分不慣れで、予定が無い日がここ最近では滅多に無かったから、何もしないで一日が過ぎていくのを、まるで俯瞰から覗くように感じていた。

「メイ、来てた?」
『ああ、居ったで』
「ふうん」
『何や、またケンカはじめたん?』
「違うよ。」
『自分ら遠慮無いもんな』
「煩い」

結局大会は、観には行かなかった。
まだ都大会だというのもあるし、昨日の今日で、メイや、景吾や侑士と顔を合わせる気にはならなかったのだ。
ごろんと寝返りをうって、薄いピンクのシーツを握る。波打つシーツの皺が、指の間に挟まる。充電器に繋いだままの、少し熱を持った携帯電話で、侑士からの着信を受けた。
今日の試合は勝つことが出来て、次の試合に繋ぐことが出来たらしかった。柔らかいタオルケットと戯れながら「とりあえず、勝ててよかったねえ」とだらしの無い声で祝福すると、頷いた彼が『次は観に来なアカンで』と笑いながら言った。

「景吾は、来てた?」
『居ったで。終わったらすぐに帰ってもうたけど』
「そっか…」
『そういえば、メイちゃんも勝ちが決まったらすぐに帰ったみたいやったなあ』
「え」
『どないしたんやろ。何か聞いとる?』
「……何にも。」

「あの子、あんまり自分のことは話さないし」知らないよ、そう言うと『さよか』と、あっけらかんとした返事が返ってきたから、それ以上は何も聞かなかった。


「…侑士、電話ありがとう」


唐突にそう言えば、急に改まって一体どうしたんだと彼に訝しまれた。何でも無い、ただそう思ったからそう言っただけなのだと言って、笑ってまたねと告げる。すっかり熱くなってしまった携帯電話に指を滑らせる。終話ボタンを押して、溜息を吐いた。
何でも無い、訳が無かった。
昨日メイから言われた通り、私は侑士に頼りすぎている、そう実感する。私も、侑士もまるで当然みたいにしているけれど、よくよく考えてみれば、どうしたって私たちはおかしいのだ。私たち個々は点と点で、それが結び付くことは永遠に無い。私も、景吾も侑士も。それが当たり前で、ここまで来てしまったのだから、どう仕様も無い。
今更お礼なんか言ってみても、首を傾げられるだけだった。


「どうしろって言うの」


メイの言うことは、よく分かる。それでも侑士の優しさを、避けられない。景吾を、好きではなくなれない。
今まで通りでいれば、何も無くさないだろう。現状を大切に守っていきたいのが、私の本音だった。けれど、このままでは誰も何も得られない。何処にも行けない。ぐるぐると回る思考を、何処かに吐き出してしまえたら、そんなに楽なことは無い。しかし一体何処に、吐き出すのか。それで、誰が受け止めてくれるだろうか。


「侑、士…」


私が相談を持ち掛けるのは、決まって侑士にだった。彼は何しろ聞き上手だったし、それでいて私の中にある答えを引き出すのが、彼は抜群に上手かった。しかしこの胸中を、どうして彼に吐露出来ようか。
ベッドに寝転がったまま、枕に顔を擦りつけるようにして、それから脚をばたばたと上下させた。丁度部屋の前を通ったらしい弟が、通りざまに「姉ちゃん煩い」だなんて言うものだから、わざわざ出て行って「あんたが煩い!」と八つ当たりしてやった。

「…何イライラしてんの?」
「あんたには関係無い」
「ふうん、ていうか携帯震えてるけど」
「あ」
「しっかりしろよ、姉ちゃん」

あと、余り騒ぐなよ。それだけ言い残すと、弟は自分の部屋へと消えていく。私は口を尖らせて、部屋のドアを出来るだけ乱暴な音が立つように閉めた。それからベッドに投げ出された携帯電話に目を向けた私は、振動を続けるそれが着信を知らせていることに気が付いて、急いで開いた。


「えっ…白石、くん?」


驚いて暫くそのまま、ディスプレイに表示される『白石蔵ノ介』という名前をじっと見つめていた。それからはっとして、すぐに通話ボタンを押す。呼び出し音が止まると同時に、二度目の彼の声を聞いた。それは侑士でも、ましてや景吾でも無い。


「久しぶりやな、アリサちゃん」



白石くんは、私のことなんて殆ど知らないに等しい。私と、景吾と侑士の、三人のことを知らない、優しい人。

「アリサちゃん?」

今の私には、余りにも都合が良すぎる。
都合が良すぎて、残酷だとすら思った。神様とかいうやつがいて、運命だとかを取り決めているとしたら、全く猟奇的だと思う。
私の名前を呼ぶ彼の声が響く。私の頭に浮かぶのは、狡い考えばかりだった。





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