そのご



「さて、そろそろ花火の時間ね!ここじゃ見えないから移動しましょ!」

「おいナミ!●●とサンジがいねェぞ!」

「お、おいルフィ、察してやれよ」

「まったくあいつら迷子になりやがって」

「お前に言われたかねェよ!」

「いいのよあの二人は。サンジくんが一緒なら大丈夫でしょ」

「そーか!サンジがいるなら心配いらねェな!」











「っ、サンジくん、」



たまに振り返りつつひたすらに私の腕を引くサンジくんは、にっと口の端を上げたままだ。
引っ張る手はいつも通り優しいのだけれど、すこししっとりと汗をかいて、私を導くスピードはいつもよりちょっぴり速い。
わけもわからずただ彼に引かれるままについていくのに必死だった。




「よかった、間に合いそうだ」




少しスピードを緩めたサンジくんがつぶやいた。え?とゆっくり顔を上げると、そこはもう人ごみから外れた、木々の生い茂る丘の上のようなところだった。




「サンジくん、みんなとはぐれちゃったよ」

「ああ、いいんだわざとだから、それより●●ちゃん、ちょっとエスコートが強引すぎたかな、浴衣崩れてないかい」

「あ、うん、それは大丈夫なんだけど」



余裕そうなサンジくんと比べて息の上がっている私を見てサンジくんはゆっくりと背中を撫でてくれた。
それにしても、わざとっていったいどういうことなんだろう。今までお花見とか、いろんな行事でみんなとお出かけしたけど、サンジくんは協調性を大事にする人だから、いつもきちんと皆と一緒に過ごして、わざとはぐれるとか勝手な行動をとることはなかった。




「でもサンジくん、わざとはぐれたって、どういうこと?」

「あー…、それは、」




少し気まずそうに、ぽりぽりと頭を掻きながら眉を下げている。いつもわりと饒舌な彼らしくない様子を不思議に思っていると、不意にドンッと低い大きな音がした。




「あ、」「あ」




丘の上の方にパッと開く大輪。光の花が散ると間もなく上がる次の色。話の途中だったのも忘れて、しばらくその花に見とれた。

花火が始まったのだ。お腹の底に響くような音に、気分を高揚させるような爆発音。次々に発色する光。きれい、だ。



くるくると変わる上空の表情に心を奪われていると、すっと右手をからめとられた。
ゆっくりと優しく。温かくサンジくんの左手が私の右手を包む。
視線を右へ移すと、花火の光に照らされたサンジくんがこちらを見て微笑んでいた。


どうしよう。サンジくんのこんな顔、はじめてみたかもしれない。



花火の光が手伝っているからだろうか。愛おしさを含んだその瞳は、やさしく曲げられた口元は、確かに見覚えがあるのに、違う。いつもよりも神秘的で、幻想的に思えて、心臓がうるさい。




「どうしてもふたりで見たかったんだ」




気まずいような、照れくさいような表情でサンジくんがぽつりとこぼした。
同時につないだ手に少し力がこもる。
優しくて紳士で、余裕のあるサンジくんのいつもと違う表情。
いつもよりすこし色気の増す浴衣姿も。
いつもよりすこし強引だった手も。
いつもよりすこし余裕のなさそうな目も。
いつもよりすこし速く胸を脈打たせる。




「サンジくん、なんか、いつもと違う」

「え?」

「ちがうけど、…かっこいい、」



なんとかそうやって絞り出すと、サンジくんはクク、と小さく笑っていた。
笑い交じりに、いつもと違うのやっぱりバレてたかと漏らす。




「どういうこと?」

「…情けねェ話だが、…浴衣の●●ちゃんがあまりにきれいなモンで…余裕なくなって、強引に連れ出しちまった」




恥ずかしそうに口をきゅっと結ぶ。サンジくんかわいい、とつぶやくと「情けねェよ、ほんとに」と眉を下げた後、ゆるやかに口角を上げる。




少し視線をそらしたサンジくんがまっすぐ私をとらえた。
サンジくんのしっかりとした指が頬に伸びる。
そのしぐさすらゆっくり見えて、どきどきどきどき、うるさい。

頬にサンジくんの熱を感じると、ゆっくり彼の瞳がちかづく。
青い光に照らされてきれいなその表情を見逃したくなくて、うっとり見つめてしまう。


ドン、


また花火があがる。赤、緑、青。彼との距離がゼロになるまでに何回花火が上がったのかわからない。いつ目を閉じたのかもわからない。ただ、サンジくんの温かさを感じた。





「●●ちゃん、クソ綺麗だよ」







(20130813)

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