わからない。それがサメラの答えだった。 「自分のため。がよくわからない。」 彼女の恐ろしく欠けたモノは主張性。 体の不調、痛みの主張。いろんなものがごっそり、抜け落ちている。 だからこそ、いまだにバロンで受けた毒が抜けきらず、片腕が痺れている。 が、主張をしない体は、平常通りに近い形で動く。サメラはその手のひらを開いて閉じてを繰り返して、じーっと手を見つめた。 いつもより、ものを掴む力が弱い気がする。 彼女にとっての、答えに真ん中や微妙はほぼない。あるのはイエスかノーだけだ。物がつかめるから、問題なし。掴んでも落とすからノー。シンプルで、簡素な答えを出すのである 「手、何かあったのか?」 「…問題ない。」 昔と比べたら。そう吐き出してサメラは、歩く歩調を早めて、セシル立ち枯れ眠るテントに急いだ。 速度に合わせず、また遠くなっていく銀の背を眺めながら、ぽつりと、「戦担倒者か」と一人呟く。 まるでそれは鬼神だとカインは思った。 揺らがない意志のように真っ直ぐ癖のない銀と、海のそれでも空のそれでもない青の目。 小さく細い女。 怯まず臆さず、動じない女だと思っていたが、心を亡くしたと聞いて、もう会えない懐かしい身内を思い出した。 「置いていくぞ竜騎士」 「今行く。」 あの後ろ姿に亡くした姉が見えた気がして、カインは小さく笑ってからサメラの後を追いかけた。小さな割になかなか早く。小走りで追いかけ、二人同時にテントをくぐる。 「まずはお前の傷の手当てからだ」 「いらない。すぐに薬を作る。」 休んでろ。とサメラは液体の薬をぶっかける。サメラは、自分のアンダーシャツで口を覆い隠し、静かににカインを見つめた。ぐらりと揺れるカインは地面に崩れ落ちる。 「…お前な…」 「ゆっくり寝ろ。セシル達が起きたら起こすさ」 とにかく、ちょっとひとりにさせてくれ。 カインの薄くなる意識の中でサメラの声が震えている気がした。気力を振り絞り、昔亡くした姉がしたように腕を掴み抱き寄せて、姉の言葉を思い出して、言葉に乗せる。 「立ち止まる、な…。」 襲い来る眠気に勝てず、カインは眠りについたのであった。小さなサメラが眠る人間の重さ分を支えれず。二人まとめて地面に倒れた。 倒れた勢いで睡眠薬を吸い込んでしまいサメラも眠りに落ちた。 前 戻 次 ×
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