マラコーダが居なくなって、サメラはすぐに荷物から粉の入った薬瓶を開けて撒いた。 「おい。」 「睡眠薬だ。吸うなよ。異変があるなら吸って寝ろ。荷物は要らない。」 口を覆いながら、そう言うと目の前の竜騎士は、手を覆い睨むようにサメラを射抜いたがサメラは怯むことなく、荷物を漁り小さなダガー一つを手にして立ち上がる。 「行くのか?」 「あぁ」 「その武器でか?」 刃の分厚い小さなダガー一つでアイツが倒せると思ってるのか?声をかけられて、サメラは返事をせずダガーを双剣に姿を変えて返事とした。激しい音を立て、刀、槍、と様々な武器に姿を変えてから、サメラはテントを飛び出した。 「待て!」 倒れた仲間の身の安全を確認してから、カインはその後を追いかけた。遠くで魔物の声が響き魔物が町に入っている事に気付く。音を頼りにカインは走り、町の入り口近くで、キャラバンの人間だと言っていた男とサメラが向かい合い立っていた。 「寄るな。」 視線をそのキャラバンの男から動かさず、サメラはカシャン。と武器の形を変えた。 「何するんだ」 「…殺す。」 お前は聞いていただろ?仲間はもう居ないと。なら、これは、それの皮を被った魔物だ。 「安らかに、眠れ。」 鈍い音と共に、斬撃で生まれた風が弾けるように巻きあがり砂を舞い上げ、視界を奪う。瞬く間のそれがやむと、そこは、少しの赤を散らしただけで、何もない沈黙だった。 「お前は、人として…」 「我々は異端だ。」 人に追われ、虐げられ、人に沿い居きる。だが、法にも縛られぬ存在である。誰かが裁かねばならない。そして、私が亡くしたのは、心だ。殺めても何も、感じない。 そう。なにも、な。と、付け足してから、彼女はまた走り出す。残されたカインは走りゆく彼女の背に黒い陽炎が薄く揺らいでるようにも見えた。 「心がけない。か」 心がないなら、泣きそうな顔はしないがな。一人吐き捨て、カインはサメラの後ろをまた駆けた。銀は遠く小さく長い髪が揺れていた。 鎧も纏わず長い刃を振るい、それは軽やかに舞うようであったが、無表情にこなして行くその様子は鬼神のようでもあった。あまり見ない銀の髪に、冷たい目をしたそれと、その背後に微かに見える黒に、かつて見た親友が重なった。 前 戻 次 ×
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