ルドルフ | ナノ


槍で一撃くらわせるつもりだったらしくサメラの居た場所には槍の傷跡が残っていた。すかさず槍の尻でサメラの顎を狙う。頭ごと引いてそれを捌く。
奴は強い、そして酷く脆い。
サメラは二撃三撃を交わして思考を巡らせる。チャンスは一度、同じ手は使えない。逆上させてしまわないといけない。

「哀れだな、お前は。セシルを殺して安心は手にはいるのか?」

入るわけないだろうが。入る前に余計に嫌われるぞ?

つい最近思ったこ。そして煽りをサメラは口に出した。素直に出た言葉は目の前の男に一瞬の揺らぎが出来た。サメラはそこを狙い拳を握る。武器が無いなら―

「―奪うまでだ。」
「っ!?」

勢いをつけて槍を掴み槍を軸に、目の前の男の腕を捻るように回転する。勢いに負けて男が槍を手放すのと同時に飛んでもない風が吹いた。銀色の機械や石に囲まれた密室で人が浮き上がる程の強風なんて起こるはずがない。慌てて離れてサメラは、もう一つ気配があることに気付くが、それは風のように背後にふっと湧いて白い腕がサメラを包容した。柔らかな何かが背中に当たる。

「カインったら、こんなかわいい女の子と何あそんでるのよ?」

包容した奴が、サメラの耳元で声を放つ。その声で背後にいるのは女だと理解した。が、こんな所に普通の女が居るのだろうかとサメラは思った。いや、居ないだろう。

「バルバシリア…なんだ?」
「ゴルベーザ様がお呼びよ。銀色の武神事変は私がお相手してあげるわ。」

はやく行きなさい。銀色の武神事変って可愛いわねぇー。と手で払う仕草をしてからなにくわぬ様子で腹に手が回る。本能が警鐘を鳴らしたのがよく解った。

「離せ!」
「あらそんな反応、可愛いじゃない!」
「えっ、エアロッ!」

叩きつけるような風の塊を産み出せば絡まる腕が緩み隙を見てサメラは逃げ出した。待て。と聞こえたが構ってやる時間はない。サメラは壁を蹴りながら上に逃げると、「私は武神事変を追うから、アンタははやくゴルベーザ様のとこに行きなさいね!」と念押しして二人が別れた音が聞こえた。
壁の僅かな凹凸を使い、サメラは上に上に登る。武器はないが、魔法はある、向かい討てるし、身軽な方が動きやすい。バルバシリアに隠れながらセシル達を探すのであった。


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