ルドルフ | ナノ


落ちる感覚がしてサメラは上体を曲げた。と同時に頭に酷い痛みを覚えた。額に手を当てて声にならない悲鳴をあげる。ぼんやりとにじむ思考に、あぁ万全でなかったと思い至る。

知らないか音に支配された小さなベッドの中にサメラは居る事に気がついた。睡眠、寝るためだけに作られたみたいな部屋に感じた。痛む鼻を抑えてサメラはベッドから降りて改めて部屋を見回した。見た感じ船の船員用の寝室にも見える、海か?と問いかけたが、船のような揺れも感じず、不思議な音だけが聞こえる。

人の気配は無い。サメラは諦めるように部屋を出て開けた場所を探した。
一切の装備も持たない今、敵が出たらどうするかなぁ。とのんびりした思考をしながら歩く。サメラは軽い鉄の鎧を纏い旅をしていたが、こんなになにも身につけないのはファブール以来だな。と思考を巡らす。
それから何が起きたかと順番に思い出してようやくバロンで気を失ったのかと納得した。セシル達はその後は倒せたのだろうかと取り留めなく呟いて、飛び起きる要因になった夢を思い至った。

よくは解らない。ただ魂に呼びかける。とも聞いた希恵くらいがある。サメラぼんやりと夢の内容を思い浮かべながら歩いていると漸く外に繋がる階段を見つけた。

そろりと開いて先を盗み見た、音の意味も、海じゃないことも、見てハッキリした。
鉄の部品に、たくさんの風切り羽が回っている船。知っているのか単語が一つあった。

「これが…飛空挺…?」

人の夢と希望の塊。
そして絶望を与えた船。

扉を開けて、甲板に足を踏み込む。視界に入るのは石造りみたいな色をした部屋。不思議な音をずっと鳴らしているのが聞こえ、飛空挺の木目を肌で感じる。足から伝わるひんやりとしてどこか暖かみのあるぬくもりを感じていたら、ふと背後に気配がした。素早く背後の気配と距離をとり、構える。

「流石、赤華の集まりの武神事変だな。」

目の前にいる男に、見覚えがあった。蒼鉄色の鎧と槍。ファブールでセシルを殺そうとした奴だった。

「何用だ」
「マラコーダの報告によりセシル達の人数が一人足りないと聞いた。」

ゴルベーザ様の命により、お前を勧誘しに来た。

「何度来ようが返事は決まってる。恨みを持つ奴の下で動くつもりはない。」
「なら、答えは一つだ。」

ギッとにらみ合った瞬間弾かれるようにお互いが動いた。


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