ルドルフ | ナノ


世界は夜。屋根裏みたいな小さな部屋。月光降り注ぐその中で、鈍い音が聞こえた。

「お前は鳴いてくれぬのか?」

月明かりに映し出されたのは暗い目をした幼子。ぼんやりと宙を見つめ、何も言わず小さなその胸は動いていた。静かな夜に、衣擦れと息遣いと叩きつける音。
四足の獣がニタリと笑い鋭い牙が柔らかな肌を傷つけ、ゆっくりと赤い池を作り上げる。

「泣かぬ夜鳴鳥。貴様はどんな声で夜を紡ぐ?」

そんな音にも反応せず赤を散らしていく幼子は、相変わらず一点を見つめている。ふとサメラが眼前にいる娘が、サメラを見ていた。目があって、そして気がついた。

銀色の髪。
空とも海とも違う青。
無表情で心を持たぬ娘。
その口が音もなく開いた。

「わ、た、し、だ。」

月明かりの隅に獣の足がちらりと見えて、視線はその足の主へと向く。世界が凍ったような気がした。
真夜中の獣。マラコーダ。
真夜中を纏いそれはそこで笑っている。

「我ハオ前ヲ、必ズ探ス。」

逃ゲレタ。ナド。思ウナ。
近クデ、オ前ヲ。

耳元でそう囁かれた気がして、サメラは目覚めた。柔らかなベッドと枕元の薬を見て、あぁそうだと。と理解し、とりあえず薬を念のため飲んでおく。

「寝てたか…。」

まだ節々は痛むところもあるが動くには問題は無さそうだし熱はきっと微熱程度だろうと判断して、ベッドから降り体を動かす。長いこと寝ていたのだろう。固まった筋肉が悲鳴を上げている。

丁寧に体を解してから、最低限の荷物と武器だけけ持って、そろりと宿から抜け出した。置いていけ。と言った手前、セシルが宿の主人におそらく何か言っているに違いないと判断したからだが、宿をでた瞬間に悲鳴が聞こえてサメラはそっと心の中で手を合わせた。

「行くか。」

セシルたちは水路から行くと言ってたが、そちらから行くにしたら時間がかかりすぎるだろうから、サメラは決めた。

「正面突破、ないし飛び越える。」

水路は越えなくて済むし、時間も短縮出来る。サメラ一人だからできる選択肢でもあった。小さな頃から鍛えられたスキルがこんなところで役に立つとは考えられただろうか。。
ニッと笑ったサメラはバロン城を目指し歩き出した。
見ていた夢の原因も頭から捨てて、ただサメラは先を見つめていた。


×