宿につくとテラもヤンも起きて、ベッドが整えられていた。サメラをそっとベッドに寝かして、ヤンが手拭いをサメラの額に置けば、冷たさにサメラが気がついて目を開いた。 「セシル…か?」 「サメラ殿。」 「…寝て、から行く…」 先に行けと言葉を残してサメラは目を閉じた。枕元にサメラが言っていた薬を置いて、サメラの鞄を閉めた。 「みんな、先に進もう。」 「でも、あんちゃん。」 「サメラならきっと追って来るよ。」 多分熱は下がらないまま来るだろうから、宿の人に頼んでサメラはここに残すけどね。と起こり得る推測で言葉を放てば、パロムはうげぇ。と苦い顔をした。 「行こう。サメラが目を覚ます前に終わらせよう。」 「セシル殿。」 「シドも心配だし。急ぐことだから。」 「セシル、気をつけろよ。賢いあの娘がこうなったんだ。知恵の回る奴が居りよるわい」 一言二言をセシルにかけて背を叩き、ちらほらと部屋から出て行く。 ポロムに先に行きますわね。と部屋を出られて最後にセシルが残った。苦しそうに魘されるサメラに言ってくるね。と言葉を残してセシルは足早に部屋を出た。 部屋に残されたサメラは昏々と深い眠りについて、眠った。荒い息遣いだけが部屋に響き渡り、額の布がだらしなく落ちた。落ちたのも気付かずに横を向き小さくなって布団の中で震えていた。 そんな中でサメラは夢を見た。 赤い絨毯が敷き詰められた石造りの部屋の一段高いところに椅子にひとりの男が立っていた。 「よく、来たの。セシル」 「…」 「私は死んだ。が、悲しむ事はない、」 この人は、セシルと私を取り違えている。水を指すのも場違いな気がして、バロン式の敬礼をとり、頭を下げた。 「改めなくてもよい。畏まるな。私は、新たな力を得て、お前たちと戦える。そのために…」 そのために召還師を探しなさい。 適切な試練を経て力を貸すことを私オーディンが約束しよう。 「……」 「何かあれば私に問いかけなさい。私はセシル。お前の側にいる。夢の中しか語れぬが、必要ならば呼びなさい。」 さぁ、現に帰る時だ。我が息子よ、私はいつも側にいる。 今は共に居られぬが、またくるのを待っているぞ。セシル。 そんな声を聞いてサメラの見る世界は変わる。 前 戻 次 ×
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