ルドルフ | ナノ


朝、目を覚ませばベッドが一つ空いていた。触っても冷たくて、長い間ベッドに帰ってないみたいだ。冷たくなっていたベッドから視線を反らして窓を見れば外になっていて。
薄暗い曇天。昨夜いつの間にか雨がずっと降っていたみたいで、開きっぱなし窓から雨が入りカーテンが濡れている。一体彼女はいつから外を歩いているんだろうかとぼんやり思った。

「…起きてらしたんですか?」
「おはよう、ポロム」
「……セシルさん。夜中に何かありました?」

寝てたから気付かなかったけれど、何かあったかい?問いかけると、鼻をスンと慣らして、窓の近くから魔物の臭いがわずかにしますわ。と放つ。

「魔物…こんな街中に?」
「最近は人に化けた方、いらっしゃったじゃないですか。」

人に似た姿をした魔物はいた。バロンにそんなのが居るなら…居たなら…。バロンは…。そう考えると背中が冷えた。

「サメラさんがもしかしたら先に戦いに行ってるかもしれませんわ。セシルさん、行きましょう」
「…あぁ、行こう」

何かあったらポロム。ここまで走ってみんなに知らせて。セシルの言葉を言うように、分かりましたわ。とポロムは首を縦に振る。宿を出て、町の喧噪が賑やかなことに気がついた。
何だろうと気になって、人ごみをかき分けて中心についたとき二人は、脳裏をたたかれたような衝撃に襲われた。しっとり濡れた絹の服と、雲の隙間から降りる光が挿して、地に落ちた天の使いにも見えた。

「サメラさん!」

セシルとつないでいた手が離れてふとセシルが我に帰った。駆け寄って揺らせど、反応は鈍く熱い。

「ひどい熱だ。ポロム。テラに連絡を。宿まですぐに連れていくよ」

抱きかかえた彼女は酷く軽い。初めて会ったときもこうして運んだが、その時よりもまだ軽くなった気がする。小さな体で何を抱えているのだろうか。

「…セシ…」
「ひどい熱だから運ぶよ」
「……荷物の中の緑の薬を後で、頼む」
「わかったよ、落ち着いたら話を聞くよ」
「先に、行け。……寝たら…おいつ、く…それと、」

覚悟決めろ。と言葉を残しガチガチ歯が鳴らしながらサメラの意識は飛んだ。彼女は何が言いたかったのかセシルはまだサメラのことをあまりにも知らないのだと痛感した。
早く宿に帰ろうとセシルは足を急いだ。


×