「そこに逃げたナ」 魔物が一吠えすれば、木はガサリと揺れ、背に服の間に腕に落ちた。月明かりにかすかに照らされてサメラは慌ててそれを払うが既に何カ所か刺されていた。 「…毒虫…ここに移動するのは予測済みだったと…何が目的だ?」 「我は我の事を進めるだけダ」 「洗いざらい吐かす。」 地を蹴り、殴りかかろうとしたら、わずかに右肩に痛みが走る。痛みに気を取られて、魔物の攻撃を食らい、地面に叩きつけるように払われたがサメラは腕をバネのように使い着地した。 「…森の賢者の娘も、か弱く脆いモノだナ」 「お前…」 「我と相打ち覚悟で放ったフレアなぞ、地獄のマラコーダには温い。賢者の知を、賢者の魔を浴びて魔を扱う力を一身に受けて、貯めながら、魔法も使えぬとハ…笑わせるナ。」 「……お前は、あのときの魔物、か…」 一瞬だけチラリとみたが記憶が一つ二つと浮かんだ。無くしたはずだった飼われてた時代も、飼われる前の飼い主も、記憶も無くしたはずだった時代もふと蘇って来た。 「賢者は焦げたが、いいものだったゾ。魔ハ。」 「…貴様…」 ザリと地面を踏む。寝る前だった裸足の足が夜の冷たさを伝えた。少し身を屈めてサメラは大きく距離を詰めた。それはまるで獣のようにしなやかに、指のあいだに掴んだ石が獣の肌を抉った。二撃目を加えようと腕を振り上げた刹那、魔物が繰り出した攻撃をかわすように、また距離を取って直ぐに駆けた。勢いが変わったことを察知して、魔物はサメラを観察しながら攻撃を裁いた。 「…感情による魔力の暴走カ?…」 サメラの周りに小さな炎が二つ三つ浮かんで、それが取り囲み爆発して弾け魔物に飛び、たどり着く前に弾けて消えた。 「ハハハハ、温イ」 三つ四つ。五つ六つ。。 周りを飛ぶ光が激しく勢いを持ち魔物に向かって放たれた。まだまだ笑っていたが、サメラの周りでバチバチ音を鳴らしてまた数が増え魔物に放たれたが、効果は薄い。 「やはりお前には闇が似合うナ。闇の臭いダ。」 クツクツ笑って、余裕そうに笑う。対するサメラは震え崩れた。 「我の仕事は終わった。そろそろ効果が出て来るだろウ。…イヤ、その様子だと立つのも難しいだロ?」 悔しければ我マラコーダを追え。そしてま魔を知りて、闇を見据え吠えればよい。 そんな言葉をかけてマラコーダは消え、そして雨が降る。 前 戻 次 ×
|