サメラが頂上にたどり着いた時、祠が一つあった。扉が閉じているので、開けるのも憚られ、まぁ出てくるだろうと楽観視して近くにあった比較的安定した岩に腰掛けて、風景を眺めていた。空を飛ぶ鳥を眺めていると、ふと声が聞こえた。 ――我が…。 どこからともなく声がする。振り返れども、何もなくサメラは、人の姿を見つけれず、首を傾けた。周りを見回してもなにもない。気のせいかと判断してサメラは寝ることにした。その時微かに空の星が一つ瞬いたのをサメラは知る由もない。 ただ夢を見ているのがサメラにはよく解った。幼い頃にいたあの家にサメラと母ティンクトゥラがいたからだ。 「あら、サメラ大きくなったわね」 穏やかな表情を浮かべ、ティンクトゥラは満足そうに頷いた。体の具合を悪くする前の母の姿にサメラは、唇を噛み締めた。 「お母さん」 「強く優しい子になったのね。嬉しいわ」 ティンクトゥラはサメラの手を握り、目をあわせた。ティンクトゥラの赤い目が、ひどく悲しく何かを伝えたそうな目をしていた。 そうだわ。こうしちゃいれないの。 サメラ。よくお聞きなさい。 彼の子らに、そしてあなたに。悲しいことが起きてるわ。 あの子を、あなた達二人で止めてあげなさい。 そのために、呪い-まじない-を一つ差し上げましょう。 否、これは基からあなたの力ですもの。 判別のつかないあなたのために封じましたが。 あなたは立派に大きくなったんですもの。 優しくしたたかな魔を辿りなさい。 光の横には闇がありますが、あなたも。 あの子も、あなたの片割れセシルも。 クルーヤからの贈り物がきっと助けてくれるでしょう。 やせ細った手があなたの頬に触れる。冷たくも優しいその手は昔懐かしい手だった。 「お母さん。私の片割れがセシルだと」 「大丈夫よ。憶する事はないわ。」 クルーヤの子は皆、優しい子よ? さぁ、そろそろ眠りから目覚める時刻よ。 なにか困ったことがあったら。 お家の床を掘り返してごらんなさい。 きっとあなたを助けてくれるわ。 さぁ、可愛い我が子よ。 全ての山におのぼりなさい。 世界が幸せに満ちている事を。 あの子に教えてあげなさい。 ほろりとあなたの指が砂糖のように溶け瞬く間にサメラは消えた。 前 戻 次 ×
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