ルドルフ | ナノ



…フシュルルル…

「なぁ姉ちゃん。なんか聞こえなかった?」
「そうか?」

どうせその辺りのグールの声だろうが。あくびを噛み締めながら、サメラは山頂への階段を踏む。

「すごい眺め…」

バロンは冬の朝、ミシディアは夏の真昼の山、トロイアは夜の町と言われてるぐらいに、山の上から世界が綺麗に見えると言われてる。誰が言ったかなんて知らな伊賀な、旅行くものの話だがな。

遠くまで見える緑に、太陽に照らされ煌めく青の色合いは、どこまでも広大な眼下に広がっている。

「たまにはいいな、こう言うのも。」
「あの時は、こういうのも見てなかったな…」
「まぁ、今から埋めればいいんじゃないか?」

全てが終わるまでにクリスタルの有る地は2つ、まだ見れる場所は沢山ある、道中もそれからもお前の足で埋めればいいだろうが。

フフン、と花を鳴らしてサメラが最後の吊り橋を踏み込んだ刹那、邪悪な気配が辺りに漂う。
吊り橋から三歩目で立ち止まった。振り返れば、仲間はまだ吊り橋にも足をかけてない。なにか予感がする。
首を傾げ、何だろうと視線をさまよわせたら、足元の板が音を立てて割れサメラは底に落ちていった。

「シュルルルル。まずは一人目」

ゆらりと表れた土色の山肌に似たローブを纏うそれからも現れた。腐敗臭を放ちながらそれは一歩寄った。

「残りはじっくり殺すとするさ。」

よたりと体を動かして、それは即座に動いた。セシルが、パロムポロムより前に出て刃で凪払う。

「かわいい、私のゾンビー達よ、奴らを喰らえ。」

ゾンビーが六体と、得体の知れない奴、合わして7体。に対して、前衛一人、後衛3人、サメラが居なければ、のいびつな形のパーティが日を見るよりも明らかに分が悪い。不死者に暗黒や負の感情をこめた攻撃の効果が薄い。セシルが耐えて魔力が尽きる前に倒さなければならない。時間はすぐそこだ。

じりじり迫る限界にセシルは、ぐっと耐えて横にゾンビーを凪いだ。迫る距離を牽制しながら、背後の魔法を的確にぶつけていたが、セシルの視界から一体居なくなったのも気が付かず、視界の隅から急に湧いてゾンビーが一体セシルに飛びかかる。

「伏せろ!」

背後から聞こえる声に、慌ててセシルが従う。そして三発の破裂音が山に響く。音がなくなりそちらをチラリと盗み見たら、向こう岸に立つ仲間がそこにいた。


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