火を吹く魔物が空を飛んでいた。木々を縫うように走り最愛の母を探す。所々で木々が燃えているのも気にかけず、駆け続けた。 魔物がないた声が聞こえて雷が落ちた。雨は降っていないから魔法で雷をお越しだのとすぐさまサメラにはわかった。 砕けた木を追いかけていけば、鋭い爪と牙を持つ四足の魔物とティンクトゥラが相対してにらみ合っていた。 「お母さんっ」 「サメラっ。」 サメラの存在にティンクトゥラの動きが一瞬鈍った。それをすかさず魔物が鋭い爪を振りかざした。怯むことなくティンクトゥラはサメラと魔物の間に入り魔法を解き放った。 「フレア!」 太陽の中にいるかの如く、明るい光と焼けるような熱に包まれてサメラの記憶はここで途絶えた。 彼女が持つ幼い頃の記憶はここで止まる。目覚めた時に全ての環境が変わっていた。歪んだ事実だけがサメラの背後に立って。彼女を刺す。 「コレが、つい最近あった西の方であった大地震の原因の化け物だっ!」 森を焼いて、地震を起こし、村を壊す力を持った化け物だと、見せ物として、サメラは買われたのであった。 母を無くし、畏怖され、粗末で冷たい食を与えられ、逆らえば殴られ、罵られ。 檻にいれられ、幼い心は壊れた。 なくしたものがたくさんあるのだから、壊れない方が可笑しい。 感情の起伏を無くし、全てを当然と受け入れて無表情になってしまった。 「おまえって奴は…!。」 拳で顔を殴られ、地面に叩きつけられる。鈍い音を立てて倒れたサメラは傷口を抑えた。 耐えていたら終わるのも知っている。だからただただ飼い主の怒りが過ぎるのを待つばかりであった。 考えるこっもや目他。ただ殴られ耐えて待って考えない。助けが来るのも、幸せだった記憶を失いながら、祈ることも止め、むなしく時間だけが過ぎてゆくのであった。 そして、幾年が過ぎた。 心を宿さないサメラも幼い顔立ちの少女となり、ただ黙するようになった。 「サメラっ。」 「……」 寄り付いた街で呼ばれ、パタパタ足音を鳴らし飼い主のもとに早足で駆け寄る。遅い、と起こられたが謝りもせずサメラはじっと飼い主を見つめた。光の宿らない青に居心地悪そうに飼い主は乱雑な言葉を吐いた。 「今日はお前を最初に使うからな。」 そう聞いたサメラは肯定も否定もせず自分の檻に帰った。 前 戻 次 ×
|